研究課題/領域番号 |
23330067
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
有江 大介 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 教授 (40175980)
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研究分担者 |
安藤 隆穂 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00126830)
中井 大介 近畿大学, 経済学部, 准教授 (70454634)
川俣 雅弘 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80214691)
山岡 龍一 放送大学, 教養学部, 教授 (80306406)
山森 亮 同志社大学, 経済学部, 教授 (90325994)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 功利主義 / 公共性 / 経済学 / 幸福 / ニューロサイエンス |
研究概要 |
平成24年度は、第一に、功利主義の政治思想やそれに基づく政治制度が近代化を目指す19世紀後半の日本をはじめとした東アジア諸国にどのように受容されたのかについて、以下のようにアメリカ、中国、韓国の研究者を招聘して、横浜国際ワークショップ“Translating the West, Past and Present:Japan, China and Korea”(6月16日-17日)を開催した。主報告は、Suh Byong-hoon (徐炳勳)教授(韓国・崇実大)、Richard Reitan教授(米国・Franklin & Marshall College)、Li Xiaodong(李暁東)教授(University of Shimane)、Yuri Kono (河野有理)准教授(Tokyo Metropolitan University)であった。 第二に、本科学研究費による研究の主要な側面である、功利主義とその経済政策の背後にある理念と思想に絞った、下記の研究集会を慶應義塾大学三田校舎にて開催した(12月15日)。主報告は、川俣雅弘教授(慶應義塾大学)「公共性と世代間の公平性」および山崎聡准教授(高知大学)「ピグーのマニフェストから見た狭義と広義の厚生経済思想」であった。 第三に、所期の研究計画に基づき、第13回国際功利主義学会(ISUS)ニューヨーク大会(2012年8月8日-11日)にて研究代表者・有江大介、および研究分担者・中井大介がそれぞれ功利主義と宗教との関係、経済思想についての研究発表を行った。 これらに加えて、次年度8月期に開催される国際功利主義学会(ISUS)横浜大会に向けて、関係研究者の協力を得て2度の準備会議を開催し(11月23日・横浜国立大学、平成25年3月2日・同志社大学)、大会の統一研究テーマ、個別研究発表の組織化など、全体的な検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、20世紀後半において、社会における公共性の構成要件である社会的正義や公平さや福祉をもたらすことができないとJ.ロールズやA.センらによって徹底的に批判されたと見なされている功利主義を再検討・再評価するものである。また、本研究第4年度にあたる2014年夏季に開催される「国際功利主義学会横浜大会」に、本研究の中間的な研究成果を複数の報告として提供することも目指しており、数次の研究集会や国際学会派遣等によってその方向が実質化した。 すなわち、初年度から継続している研究集会において、公共性という概念、功利主義政治思想、功利主義倫理学、功利主義の経済的表現と言えるA.C.ピグーらの厚生経済学、さらに、功利主義思想の東アジアへの波及など多方面に渡る主題について検討を重ねてきた。その過程で、現代世界が“市場原理主義”と揶揄されるほどにアングロ・アメリカン的価値観に支配された経済社会であるとするなら、なぜそうなったのかについて考えるにはそのエッセンスである功利主義について本格的な再検討が必要であることが、改めて明らかとなった。このこと自体が、単に功利主義を批判することで事足れりとする近年の多くの議論の不十分性を指摘するという点で重要な達成と言えるとともに、昨年の国際功利主義学会ニューヨーク大会での本研究関連研究者による経済学からの報告など、学界への問題提起ともなっている。 しかし、研究成果としてはまだ以下の点で不十分である。研究計画において、社会の厚生と福祉を“幸福”や“公共性”という視点から捉え返そうとしたとき、上記のそれぞれの主題に加えて、所得再分配政策などのより具体的な政策についての実証や、最近のニューロ・サイエンス研究の進展によりもたらされた個々人の感情と行動についての新たな知見と功利主義や幸福感との関連についての検討などが、果たされねばならない検討課題として残っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、人々の幸福を目指す一般的価値理念として、あるいは経済的、政治的な政策判断の基準としての功利主義は決して棄却され得るものではないことを、①経済の思想・理論・政策の歴史、②貧困の解消や所得の再配分のための経済分析と実行可能な制作の方法、③これらに通底する政治思想・哲学、のそれぞれの領域で、内外の議論の検討を通じて明らかにすることである。 第3年度の今年度は、次年度夏期に開催が決定している国際功利主義学会(The International Society for Utilitarian Studies: ISUS)横浜大会への開催国・日本からの報告を促進することを念頭に置いて、上記の領域の準備研究集会を複数回開催する。その際、博士課程院生などの若手研究者の参画を推進する。また、アジアでの開催を踏まえて日本・中国・韓国との研究面での連携と大会報告での協力を昨年度同様に引き続き模索する。 具体的には、ISUS大会の予定される統一テーマ「功利主義と幸福概念」にかかわる主題をできる限り幅広くとらえ、アカデミズムの枠を越えた多方面からの参加を企図した研究集会の組織を試みる。たとえば、わが国自治体が取り組んでいる住民の幸福度調査や、若年層の高失業率を背景とした若者のスピリチュアルな活動への傾斜という事態などの検討も研究集会の報告の候補である。もちろん、前記「現在までの達成度」に示した功利主義的視点からの現実的政策への評価やニューロ・サイエンスとの関連についても目配りを忘れることはない。とりわけこの面では、応用倫理学や政治哲学などの人文的領域に傾きがちな近年の内外の功利主義研究に対し、2014年ISUS大会において一石を投じる準備とする。 また、引き続き、国内だけでなく、中国や韓国の研究者との連携的研究、若手研究者の研究補助にも繋がる企画を立て、その実現を図る。
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