近年我が国においては、医師の偏在・医師不足が大きな社会的問題として取り上げられてきた。本研究では、これに関し、医師調査個票データを用いた実証分析を行う。第一に、医師の長期パネルデータと動学的モデルを用い、医師が、地域間移動、 開業、退職等のキャリア選択を如何に行い、どのような要因が意思決定に影響を及ぼすか、構造推定する。また推定したモデルを用い、医師偏在の解消に向けた制度・政策の効果を仮想的に検討する。第二に、医師の不足や偏在が、医療のアウトカム(死亡率など)等にどのような影響を及ぼしているか推定する。 本年度は以下の研究を実施した。 1. データの検証・基礎分析:本研究では厚生労働省の医師調査個票等を目的外利用申請し、医籍番号に基づき医師レベルの長期パネルデータを作成する。本年度はこれらの最新年度のデータを再度申請・取得し、データの検証・分析を進めた。 2. 医師が大学での教育を終えた後、毎年毎年、どの地域でどの様な形態(勤務医又は開業医)で働き、どの時期に退職するかという選択を行うような動学的離散選択モデルを構築し、コンピュータ上でシミュレーション(数値分析)ができるように数理表現を行い、パラメターの値の推定を行った。この際、男性医師と女性医師ではキャリア選択のパターンに大きな違いがあることが判明したため、性別の影響を明示的に考慮した動学的モデルの定式化に着手した。 3. 誘導系の固定効果モデルの推計を行った。本年度は、昨年度に引き続き、医師分布が医療のアウトカム等に及ぼす影響について詳細な分析を進めた。特に、2004年に新たに導入された新臨床研修制度に着目し、新制度が、i) 医師の分布、ii) 医師の労働市場、iii) 医療のアウトカム、にそれぞれどのような影響を及ぼしたか、に関して分析を行い、基礎的な分析結果を得た。
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