本研究の主眼のひとつは、近年報告されている「資産間の相関関係の高まり」という現象を説明するため、市場の構造変化を捉えるモデルを構築することであるが、前年度に妥当な結果を得ることができた。今年度はこのモデルを利用して、構造変化が起こる場合に資産運用効果を高める具体的方法について研究を行った。 まず構造変化があることを前提として資産配分を行えば、投資効率が上昇することが確認できたため、日本ファイナンス学会で報告した。さらに進めて、リアルタイムでデータを観測しつつ、構造変化があったことを正確に捕捉し、かつその新しい情報を使って資産配分を変化させるという(現実的な)状況を想定し、どのような方法が望ましいかという問題に取り組んだ。その目的で実装したプログラムは実務的に有用なツールとなる可能性がある。 さて、構造変化を捉えた時点以降は、新しいレジームのもとでの業種間の共分散行列の推計を(新たに)行う必要が生じる。この場合、ある程度の期間のデータ蓄積を要することとなるが、このリードタイムの存在が運用パフォーマンスを低減させる場合があることを発見した。当初の研究計画にはなかったことであるが、より深いレベルで課題研究を遂行し、実務上より有益な方法を提案するため、この点を改善した投資手法の開発に鋭意取り組んでいる。また、構造変化の原因に関する理論的研究として「曖昧性回避(不確実性を避ける傾向)」を持つ投資家行動を分析し、研究成果をレフリー付学術誌(Economics Letters)に投稿した。 一方、金融危機発生時に見られた資産相関の高まりという構造変化が、資産価格の短期間での大幅な下落をもたらすため、ジャンプ付きモデルの研究を引き続き行った。資産運用の最適停止ルールを考察するための下方ジャンプ付きモデルにおける最適停止理論に関する論文がレフリー付き学術誌(Advances in Applied Probability)に掲載された。
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