研究概要 |
本研究の目的は,個人レベルと企業レベルというマルチレベルで観察される変化に注目して,組織消滅に伴う組織能力の解体と競合企業への能力移転メカニズムを検討するものである.具体的には,四大監査法人の一角を占め2007年に解散した中央青山監査法人(解散時はみすず監査法人)の事例に注目し,同監査法人の取引関係と公認会計士移動を追跡する大規模パネルデータを構築し,組織消滅を契機にした組織能力の解体と企業間能力移転メカニズムを,組織論と監査論の視点から学際的に検討することにある. 平成23年度は,先行研究の文献サーベイに基づく研究課題の導出・検証と作業仮説の構築・深化作業に注力し,データの収集・入力・コード化・検証作業の推進を通じたパネルデータセット(54047ケース:2004年度から2009年度までの上場企業4352社の437監査法人(会計事務所)3579名の監査人の移動データ,および監査報酬データ)の構築作業を完了した. さらに,データを活用した実証分析を通じて,監査を担当する監査法人が変わったとしても,従来から監査を担当していた監査人が転籍し継続して当該監査を担当し続けている場合と,新たな監査人が担当する場合とでは,監査報酬に与える影響が異なることを明らかにした。すなわち,監査法人の変更があった場合でも,個人レベルでの知識を継続的に利用できる場合には,そうでない場合に比べて監査報酬の増大額は小さいことが示されている。現在,本データベースを基にした実証研究を推進中で,2本の実証論文を暫定的に作成し,レフェリープロセスを経て,3つの国際学会(European Business History Association,American Accounting Association,International Symposiumon Audit Research 2012)で発表することが決定した.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は当初の予定通り進んでおり,24年度の国際学会発表論文を早い段階で専門査読誌に投稿する作業を加速させる予定である. それと並行する形で,最新版の2010年度のデータまでデータセットを拡張する予定である.また,一部の企業については歴史的に移動データを遡ることで,より長期にわたる監査法人の変更と監査人の移動パターンを明らかにすることができる. 最終年の25年度は,国際学会での発表と国際的な査読専門誌への投稿作業に特に注力する予定である.研究は計画通りに順調に進行しており,現時点では大きな課題は見られない.
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