研究課題/領域番号 |
23330142
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
川上 智子 関西大学, 商学部, 教授 (10330169)
|
研究分担者 |
竹村 正明 明治大学, 商学部, 准教授 (30252381)
岸谷 和広 関西大学, 商学部, 准教授 (40330170)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / アメリカ / 韓国 / シンガポール / JPIM |
研究概要 |
本研究は、ICTがネットワーク外部性を有する新製品の普及に与える影響を理論的・実証的に探究するものである。4年間の研究期間のうち、2年目にあたる平成24年度は、前年度までに収集した消費者データの分析を進めて成果を国際学会で発表し、海外ジャーナルで公刊した。また、電子書籍市場に特に焦点を当て、ヒアリング調査に基づく定性的研究と理論構築、それらをデータで検証するための定量的研究を進めてきた。 平成24年度の研究成果としては、まず第1に、イノベーション分野のトップジャーナルであるJournal of Product Innovation Management(JPIM)に2本の論文が掲載された。うち1本は、対人クチコミとバーチャルなクチコミが新製品購入後の利用にどう影響するかを考察した論文である。もう1本は、同じく対人クチコミとバーチャルなクチコミの影響を技術受容モデルの枠組みで考察した論文である。 第2に、新たな理論枠組みの拡張とその実証研究を行った。すなわち、クチコミ研究に説得的コミュニケーション研究に由来する情報信頼性という概念を導入し、検証した。あるいは、購入希望価格(Willingness-to-pay)の概念を導入し、価格戦略にも示唆を与えうる枠組みに拡張した。これらの研究成果は、2012年7月にソウルで開催されたKSMS Global Marketing Conference 2012や、10月にフロリダで開催されたProduct Development Management Association Conferenceで報告した。 最後に、ICTの発達に関して、FacebookやTwitter等のSNS(Social Networking Service)の影響を明示的に取り入れた研究を推進した。その成果の一部は12月にシンガポールで発表し、改訂投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度はソウル、フロリダ、シンガポールの国際学会でそれぞれ研究成果の報告を行うとともに、現地で当該分野に関心を持つ研究者から多数のフィードバックを得ることができた。また、投稿中であった論文も海外ジャーナルで2本刊行されるなど、大きな成果が得られた年であった。 発表や刊行といった目に見える成果だけでなく、次年度以降の研究推進に向けて、電子書籍業界の関係者に前年度にヒアリング調査した大量のインタビューデータをテープ起こしする作業や、それに基づく概念モデルの構築に関する共同研究者との議論も地道に行ってきた。とりわけ、10月にフロリダで発表した、電子書籍市場における破壊的イノベーションに関する理論構築論文は、その集大成への第一歩とも言えるものであり、さらなる考察を重ね、海外ジャーナルへの準備を進めているところである。 本研究の到達目標は、ICTの発達による新製品の普及への影響要因を明らかにし、理論的・実践的示唆を導くことにある。その目標に照らし合わせて考察すれば、対面クチコミとバーチャルなクチコミの区別を明らかにした概念的整理およびその実証研究の海外ジャーナル刊行を通じて、SNS等のソーシャルメディアを用いた企業の新製品市場導入戦略に示唆を与えうる成果を、既に一定水準で提示したものと考えられる。 なお、それに留まらず、電子書籍市場に関しては、業界関係者への丹念なインタビュー調査に基づく出版業界の取引慣行制度とその影響に関する考察、あるいは電子掲示板における発言内容を分析したブランド・コミュニティの形成とその規定要因の考察等、理論的・実証的に広がりと深さを持つ研究を進めることができている。以上の点から、当初の計画以上に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間は、残すところ平成25年度と26年度の2か年である。既に一定水準での成果は挙げつつあり、困難な問題点は特に認識されていない。推進中の研究の完成度を高め、国内外に発信していくことが今後の課題である。 具体的には、現在執筆中の電子書籍市場に関する事例研究論文をJournal of Product Innovation Managementに早期に投稿することが当面の課題である。この論文は、日本市場の文化的特異性を多面的に考察したものであり、ものづくりの卓越した技術だけでは新市場の創出が難しい理由を、破壊的イノベーションの阻害要因として抽出した。日本市場を対象とした理論構築論文が海外ジャーナルに掲載されることは、学術的にも欧米に対する文化的多様性を担保する意味で意義は大きい。加えて実践的にも、コンテンツの充実やその普及施策を考察している点で、企業に示唆を与えうるものと考えている。よって、平成25年度中には投稿を完了させ、早期の公刊を目指したい。 また、平成25年6月にパリで開催されるInternational Product Development Management Conference(IPDMC)で発表予定のソーシャルメディアとクチコミの影響に関する研究も推進していく予定である。Facebook、twitter、Lineといった新たなメディアを企業の新製品普及戦略といかに結び付けていくかは、今後の理論的・実践的な研究課題として重要である。消費者がソーシャルメディアを利用して新製品の購買意思決定に至るプロセスとメカニズムを追求していきたい。 なお対象製品は、現時点では定性的・定量的研究の相乗効果を期待できる電子書籍市場に資源を集中させている。今後、市場導入段階にあるネットワーク外部性を有する新製品が登場すれば対象範囲を広げ、より一般化可能性の高い理論構築を目指す。
|