研究分担者 |
高須 教夫 兵庫県立大学, 会計研究科, 教授 (70148732)
松本 敏史 同志社大学, 商学部, 教授 (90140095)
佐々木 重人 専修大学, 商学部, 教授 (40162367)
小野 武美 東京経済大学, 経営学部, 教授 (10185639)
岡嶋 慶 拓殖大学, 商学部, 准教授 (30308697)
|
研究概要 |
会計の利益計算構造を支えてきた複式簿記は,13世紀初頭の発生以来,その測定の基準を取引した時点の価格,すなわち取得原価に求めてきた。取得原価による測定の最大の利点は,そこで測定された価額が歴史的な事実として,いつでもその価額の客観性,すなわち取引事実の検証を可能にさせるところにある。ここにこそ会計の利益計算構造を支えてきた複式簿記の原点があり,会計に対する信頼性を確固たるものにした最大の要因を見出すことができる。会計ないしは複式簿記が800年もの長きにわたって継承されてきたのは,まさにこの事実性と検証可能性に裏づけられた信頼性が担保されていたからなのである。 われわれが担当する委員会の課題は,先のような論点に立脚し,先ず初めに,時価による評価替えの実務が歴史的にいつ頃登場し,どのように変遷してきたか明らかにし,次いで,FASBやIFRSが推し進めようとしている公正価値会計,とりわけ割引現在価値会計が抱える問題点を歴史というフィルターを通して検証し,会計の本来の役割を明らかにすることにある。 今夏,突然に降って湧いたIFRSの適用範囲の縮小議論や延長議論に惑わされることなく,会計の本来的役割が何であるのかを通して,ありうる会計の測定手段を明らかにすることにある。意思決定有用性アプローチにその軸足を置く金融資本中心の世界的な流れの中で,今一度,モノづくりを基軸に据える日本経済を再生させるために,包括利益情報に対する当期純利益情報の存在意義を単に信頼性の観点からだけではなく有用性の側面からも明らかにしていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年9月に久留米大学で開催された日本会計研究学会の全国大会において,「歴史から見る公正価値会計」と題する研究成果を科学研究費申請メンバーで報告した。この成果報告までに,斎藤静樹教授,安藤英義教授,平松一夫教授の3名の講師に講演を依頼し,ディスカッションを通して,メンバー各位の研究をより一層掘り下げ,中間報告として各テーマに沿ってまとめ,論考として公表した。
|
今後の研究の推進方策 |
中間報告の成果を受け,各委員は,今後の課題を明確に認識し,2012年度の8月に予定されている一橋大学での日本会計研究学会の最終報告に向けて,各自の担当部分の一層の充実を図る。本年度も研究会を4回計画し,メンバー全員が最終報告に向けて発表し,申請課題「歴史から見る公正価値会計-会計の根源的な役割を問う-」に沿って,現代会計が抱える問題点,すなわち今日の資産負債アプローチを過度に偏重する会計観の問題点を明らかにしていくことにする。それと同時に,今日の行き過ぎた意思決定有用性アプローチによって失われつつある会計の原点である信頼性の重要さを会計が誕生した原点に立ち戻って明らかにしていきたい。
|