平成27年度も継続してステレオタイプ化経験後のネガティブ感情の制御の問題を研究した。その1つでは、ドクタースミス問題の前に性別質問に回答を求められた参加者では、そうでない参加者と比べて適切な回答をしやすくなったことが示された。この際に、不適切な回答をした参加者は、その回答のコンセンサスを高く推測するという自己正当化のバイアスを示したが、この過程はネガティブ感情の制御の1つと考えられた。また、すでに実施していた嫉妬的ステレオタイプ抑制後のリバウンド効果の自己制御の研究を論文としてまとめ、『実験社会心理学研究』誌に公刊した。この研究では、抑制対象に競争意識を感じにくい場合にはリバウンド効果が生起しないことを示した。加えて、他者志向性が自己制御に及ぼす影響を検討する実験を実施した。その1つでは、他の実験参加者からの贈り物を受けとるときに善意を知覚した者は、そうでない参加者と比べて、後に実験者が多数のクリップを落とす場面に遭遇したときに、より多く拾ってあげるという援助行動が示された。この「善意の知覚」は相手からの他者志向性を感じることで、それが向社会的行動を動機づけると考えられた。以上に加えて、身体化された認知を研究する中で、社会的場面での自動的な自己制御過程を検討した。実験では、参加者に黒色または白色の衣服を着させて作業をさせた後に、道徳性の自己評定を求めた。その結果、白服着用者は黒服着用者よりも道徳性の自己認知が高いことが示された。この結果は、顕在レベルの自己評定よりも潜在的連合テストによって測定された潜在レベルの道徳性の自己認知で明確であり、黒色・白色に象徴的に含意されている社会的意味に影響を受けて、行動を非意識的に制御する過程を示していると考えられた。以上のように実施してきた多様な実験研究の成果をまとめ、社会的場面での自己制御に関する新たな理論モデルの構築を目指している。
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