研究課題/領域番号 |
23330194
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
唐沢 穣 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (90261031)
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研究分担者 |
吉成 祐子 岐阜大学, 留学生センター, 准教授 (00503898)
松井 智子 東京学芸大学, 国際教育センター, 教授 (20296792)
内田 由紀子 京都大学, こころの未来研究センター, 特定准教授 (60411831)
堀田 秀吾 明治大学, 法学部, 教授 (70330008)
岡本 真一郎 愛知学院大学, 心身科学部, 教授 (80191956)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コミュニケーション / 社会的認知 / 言語 / 紛争解決 / 文化 |
研究概要 |
1.発話行為にかかわる理論的枠組み構築の試みの一つとして、言語表現と他者配慮の関係を「関与権限」という概念によって説明することを提唱した。その実証的検証として、他者内心の表現に関して,話し手の視点の位置と言語形式の関連を検討するための実験研究を実施した 2.言語使用と認知過程の関係に関する検討事項として、他動詞と自動詞の使い分けが事態の認識に及ぼす影響を実験により検証した。動詞の用法が、事象の原因や責任の所在に関する認知に与える影響については実証的知見を得ることができた。この他、偏見やステレオタイプの使用と言語表現との関連を示した社会心理学実験を行った。 3.文化的基盤の検討については、援助場面においてどのような申し出表現・援助要請表現が用いられるか、またこれらの言語表現と感情経験との関連についての調査を実施した。その結果、日本においては互いの意図の確認よりも、状況の確認を前提とした言語表現が用いられることが明らかになった。さらに「てくれる」「てもらう」表現がどのような心理状態と関係しているのかの検証も行った。 4.教育手法の開発では、申し出・援助を中心とする対人関係的発話行為について、日本語母語者だけでなく第二言語学習者をも対象としたデータベース作成の作業を行った。また、紛争解決文脈での教育題材として、調停者養成の専門家の協力のもと、紛争場面での使用言語の収集を継続した。さらに、アスペルガー症候群や自閉症と言語使用の関連に関する観察を通して効果的な介入方法に関する考察を行った。 5.以上の各分野における成果を心理学・言語学・日本語教育学・法学など幅広い分野の学会や研究会において公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した理論研究、実験研究ともに順調に進捗している。 まず理論構築では、言語心理学研究で用いられてきた「心理的縄張り」概念の拡張として「関与権限」の概念を提唱し、これに基づく仮説を検証するための実験的研究をいくつか実施した。他者の心的領域と話し手の視点との関係が言語使用に影響を与える過程を解明することは、発話行為の重要な側面を明らかにすることにつながることが期待できる。 また、自己や他者の行為がもたらしたポジティブまたはネガティブな結果を記述する言語表現が、事態の原因や責任の所在に関する認知と関係することを実験によって示す試みも着実に進捗している。事態の認知と言語表現の関係だけでなく、印象操作や自己呈示といった対人関係要因との関係についても多くの示唆を得ている。 文化的基盤の働きに関する検討では、申し出表現・援助表現の発言する状況サンプリングとその分析、さらに各状況における言語表現についてもデータの蓄積が進んでいる。日本語母語者に加えて第二言語習得者からのデータ収集も進んでおり、これらをデータベースとした教材作成にも役立てることが期待できる。この他、社会的カテゴリー化の過程と言語使用の関連に関する国際比較研究の成果の論文化も進んでおり、国際誌への採択を目前とするところにまで至っている。 発達心理学的検討では、アスペルガー症候群、自閉症などの事例にみられる言語使用に関する分析を通して、発話行為の検討に基づく臨床的介入方法に関する考察も進めている。紛争状況における言語使用の分類と分析も進んでおり、調停トレーニングの実践に役立てる方法の考案を進めている。社会への還元と実装を目指したこれらの試みも順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
関与権限や自他動詞の使用に関する実験研究では、さらに実験題材の洗練化を図り、最終年度における実証研究の仕上げにつなげることを目指す。 文化研究では、日本でのデータ収集を継続するとともにイギリスでや中国等で実験を行い、文化間比較をもとにした新たな議論の展開を図る。併せて、日本語特有の対人関係的発話行為の概念化と分類を完成させ、第二言語習得教材の開発と連携させる。 紛争解決研究では、本年度早期に完成予定のデータベースをもとに、調停トレーニングを行う実務家との連携を進め、実際の研修等での試行を行う予定である。発達研究における介入と並んで、実践面での進展が期待される。 最終年度における研究成果の公表として、論文等の執筆を継続するとともに、シンポジウムを日本心理学会他において企画する。さらに、研究代表者および研究分担者によって共同執筆された研究書の出版計画について具体化を図る。
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