研究課題
2015年度においては(1)社会的痛みの生起、制御、表出過程の詳細な検討、(2)ノスタルジアならびに愛着と社会的痛みとの関連についての検討を行うことを目的としていた。これらのうち(1)についてはまず、時間分解能に優れたERPならびに表情筋筋電図を用いて社会的排斥を受けている間の知覚、情動ならびに行動上の変化過程を明らかにした。また、空間分解能に優れたNIRSを用いて、社会的排斥を受けた際の情動調整機能に関わる脳部位の賦活と個人の社会経済的地位との関連を分析した。さらには、被排斥経験後に示された受容手がかりが却って攻撃性を増大させる可能性について社会心理学的な実験研究で検討した。(2)についてはノスタルジアならびに愛着スタイルと社会的痛みとの関連について社会心理学ならびに生理心理学の観点から実験的に検討した。ノスタルジアは排斥手がかりの検出能力と正の関連を持ち、また検出能力は将来の受容を予測することが示されてた。なお、愛着スタイルと社会的痛みとの関連についても実験的な検討を行い、現在データ分析中である。これら交付申請書に記載された計画に関連する成果に加えて、2015年度は社会的痛み研究の応用的な展開として、高サイコパシー傾向者の攻撃性と社会的排斥との関連についても分析した。サイコパシー傾向と攻撃との関連を被排斥経験が媒介することが示されている。さらには、一般的信頼が被排斥経験後の新たな関係性の構築に及ぼす影響についてゲーム手法を用いた検討も行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画にあげた課題については全て順調に進捗している。そのことに加えて、サイコパシー傾向と攻撃性との関連における被排斥経験の媒介効果ならびに被排斥経験後の新たな関係性構築に及ぼす一般的信頼の効果など、これまでに蓄積した知見の応用的展開についても取り組んだ。これらのことから、当初の計画以上に進展していると評価できる。
これまで社会的痛みに関して多くの研究知見を報告してきた。これと平行する形で2015年度半ばから死に関連する刺激の処理過程について神経科学的な検討を行っている。これは、この処理過程が社会的痛みの処理過程と類似しており、そこに共通の神経メカニズムの存在する可能性が考えられるからである。さらには、近年急速に関連研究が増加している社会的温かさ(social warmth)についてもやはり共通のメカニズムの存在が示唆されている。このような現状を踏まえ、今後は社会的な脅威状況の処理過程についてのより一般的なモデル構築の可能性を探りたいと考えている。
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