研究課題/領域番号 |
23330198
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊東 裕司 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (70151545)
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研究分担者 |
仲 真紀子 北海道大学, 文学研究科, 教授 (00172255)
厳島 行雄 日本大学, 文理学部, 教授 (20147698)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 裁判員 / 感情 / バイアス / 被害者の意見陳述 / 事実認定判断 / 二重過程理論 |
研究概要 |
本研究では、感情を喚起させるような情報の法廷における提示が、裁判員の有罪・無罪の判断にどのような影響を与えるのかについて、模擬裁判員実験を通して検討することを主たる目的とする。前年度までの研究で、殺人事件の被害者遺族の意見陳述がもたらすネガティブ感情が有罪判断率を増加させること、実験参加者に事前に事件とは無関連な課題を課すことによって合理的な判断を促すと感情の影響が減少し、有罪判断率が低くなること、刑事裁判の原則説明が、認知欲求の高い実験参加者においては、ネガティブ感情の影響を低下させること、正確な判断をしようという動機づけが認知欲求の低い実験参加者においても、ネガティブ感情の影響を緩和することなどが明らかにされてきた。 本年度の研究では、これらの実験のデータを取り足し、詳細な分析を行い、理論的考察を深めることを行った。実験の結果自体は追加データや追加分析により大きく異なることはなかった。ただし、被害者遺族の意見陳述を有罪・無罪の判断に用いないように、という直接的な注意を与えると、特に認知欲求が低い参加者では、かえって有罪判断の理由に意見陳述が挙げられる傾向が高まる、という興味深い結果も得られた。これらの結果は、我々の判断は素早く直観的な過程とゆっくりとした緻密な過程の2種類の過程によるという二重過程理論によりうまく説明されること、後者の過程が用いられた場合には、感情を喚起させるような情報の提示は有罪・無罪の判断に影響しにくいことが示された。 一方、法廷内で実際の裁判員に適切な判断過程を採るように方向付ける方法については検討が必要であるが、困難であることが示唆されている。そのため有罪・無罪など事実認定の手続きと量刑判断の手続きを分離すべきであるとする、手続き二分に関する法学的な議論と関連付けて論じる必要があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
模擬裁判員実験を行い、これまでの結果をまとめて法律学者、法実務家、一般市民に向けて報告し議論する機会を複数持つことができた。これにより、前年度の課題であった、法実務に関する提言、それに対するフィードバックを得て、次の研究につなげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、感情の測定を質問紙により行っていたが、不十分である可能性が示唆されており、皮膚抵抗反応、心拍などの整理指標を導入することとした。また、これまでの研究では、感情を喚起する材料に触れた直後の判断におけるバイアスを問題にしていたが、実際の裁判員は審理から評議までの間に数時間から数日の時間が経過する場合が多く、ある程度時間をおいてからの判断のバイアスについて実験的に検討することを計画している。 また、引き続き、法律学者、法実務家などとの議論の機会を設け、より実践的な研究を目指し、現実的な提言につなげることを目指す。
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