研究概要 |
本研究は「ワーキングメモリ」をキーワードに,1人ひとりの子どもの学習ニーズに合った先進的なカリキュラム開発と教育のシステム作りを目指している。本年度の目的は,小学校児童のワーキングメモリのアセスメントを行い,ワーキングメモリの相対的に小さい子どもが日本の小学校の授業場面でどのような行動を示すのかを明らかにすることであった。小学校二,三,四年児童についてワーキングメモリのアセスメントを行った。ワーキングメモリの成績をもとに,総合得点がクラスで下位3名の児童に注目し,それらの対象児童の観察を国語,算数,理科の授業で行った。その結果,以下のように,対象児童の挙手,および授業参加が全般に低く,授業態度が対象児童の学習にとってネガティブに働いていることが示唆された。1,二年生の挙手率は,教科に関わりなく,全般に低く,授業参加率は,高い児童と低い児童がいた。そして,各児童の挙手率と授業参加率の傾向は,1年前とほとんど変わっていなかった。2,三年生の挙手率と授業参加率は,平均的なワーキングメモリの児童(対照児)よりも低い傾向が見られ,また,教科によってばらつきが大きかった。3,四年生の挙手率や参加率は,対照児よりも低い傾向があるが,教科によってばらつきが見られた。特に,理科の参加率が高かった。また,国語の授業で,文章の状況モデルを構成する作業場(ワーキングメモリ)を外的に補うために,視覚的な絵やモデルを利用することの効果を検討した。その結果,教師と児童の話し合いの場面を分析することで,絵やモデルなどの視覚的な道具を用いた文章の読解や,教師が適宜,リヴォイシングなどの手法を用いて,話し合いを分かりやすくし,方向づけることが有益であることが示唆された。
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