研究課題/領域番号 |
23330215
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
下野 孝一 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (70202116)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 視知覚 / 空間定位 / 方向判断原点 / 視方向 / ポインティング |
研究概要 |
本年度は視方向原理に関する歴史的研究を行い、その結果を心理学評論に投稿した。歴史的研究において、われわれは過去30年ほどの研究を概観し、単眼刺激と両眼刺激が同時に提示されたときに、逸脱現象が生じうることを指摘した。また本研究でわれわれは、原理の根幹をなす、視方向原点(あるいはサイクロープスの眼)の概念を巡る論争(原点位置は固定しているか、刺激特性によって移動するかの論争)を概観し、現在までのところ、原点位置は固定しているという従来の考えがより妥当性があることを示した。さらに従来見過ごされがちであった、錯視現象と視方向原理の矛盾についても言及した。 歴史的研究に加え、本年度は、単眼視方向原理の逸脱現象についての論文作成と、両眼視方向の逸脱現象について実験的研究を行った。単眼視方向の逸脱現象に関する実験結果は日本視覚学会において発表し、論文はPerceptionに投稿する予定である。両眼視方向の逸脱現象に関する実験研究は日本基礎心理学会において発表し、2013年度Vision Sciences Societyにて発表予定である。 単眼刺激、両眼刺激の逸脱現象についての実験結果は、とくに当該刺激が背景刺激と類似の奥行き面に提示され、かつ背景面が奥行き方向に回転したときに逸脱現象が生じやすいことを示した。この結果は、当該刺激の周囲に置かれた刺激(背景刺激)の布置が視方向に影響を与える要因の一つであることを示唆した。したがって、逸脱現象は、原理が仮定した、視方向に影響を与える要因(網膜像位置、網膜像差、両眼位置)に加え、背景刺激布置の要因も加えるべきであることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は単眼視方向の逸脱現象について研究を行う予定であったが、研究員の確保が遅れたために、実験の進行が少し遅れ気味で、本年度にも一部単眼刺激の逸脱現象を扱った。本年度はまた、単眼刺激の実験中に、両眼視方向に関した”新しい”知見が示唆されたために、当初予定を変更した。知見が本当に新しいかどうかを確認するために、本研究の最終年度に予定していた歴史的研究を繰り上げたのである。歴史的研究の結果、知見は新しいものであると考えられたので、両眼視方向の原理の逸脱現象を中心に実験を行うこととした。 歴史的研究を繰り上げたことにより、当初予定していた、3次元ポインティングの研究は遅れることとなったが、最終年度に繰り下げることで対処できるので、当該研究者は現在の状況を大幅な遅れとは考えていない。当初予定していた研究は残りの年数で十分に達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の予定を繰り上げたために、本年度の予定していた3次元空間のポインティングを来年度に行い、最終年度には他者がいる場合の視方向判断について研究を行う。 3次元空間のポインティングには、既存装置である3次元位置センサーを使い、被験者に暗中の光点をポインティングしてもらったときの手及び鼻の位置から、視方向原点の位置及び触運動方向原点を推測する。また、明室においても同様のポインティングをしてもらい、両条件で、それぞれの原点位置に差があるのか、差異があるとすればどのような説明が可能かについて議論する。さらに実験結果は、Shimono & Higashiyama (2011)が提案した2重原点仮説(dual egocentre hypothesis)によって説明可能かを調べる。来年度の明室条件でのポインティング結果は、最終年度の他者がいる場合のポインティング結果と比較することによって、ポインティング行動に社会的影響があるかについて1つの答えを出してくれるだろう。
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