本研究では、低周波音による振動感覚は頭部で鋭敏に知覚されるという、研究代表者の過去の研究に基づき、独自に定義した「頭部の振動感覚」を測定対象とした。 平成25年度(3年目。研究最終年度)は、前年度に引き続き、2つの周波数成分(キー成分と付加成分。キー成分は、40 Hzまたは50 Hz。キー成分が40 Hzの場合の付加成分は、16 Hz、25 Hz、または63 Hz。キー成分が50 Hzの場合の付加成分は、20 Hz、31.5 Hz、または80 Hz)で構成した12種類の複合低周波音をテスト音として、「頭部の振動感覚」の等感度レベル及び比較用の聴覚の等感度レベルを測定し、データを蓄積した。等感度レベル測定時の基準音には、「頭部の振動感覚」では50 Hz、85 dB(Z)の純音、聴覚では50 Hz、70 dB(Z)の純音を用いた。 得られた測定データは、前年度までのデータと矛盾しなかった。すなわち、聴覚の場合には、複合音中の周波数の高い成分の音圧レベルが等感度レベルの決定に支配的に寄与していたのに対し、「頭部の振動感覚」の場合には、周波数の低い成分からの寄与も無視できないことが示唆された。これは、平成24年度(2年目)までに同じテスト音を用いて測定した「頭部の振動感覚」閾値についての結果とも矛盾しないものであった。これらの結果から、純音での「頭部の振動感覚」閾値に近い音圧レベルの低周波成分が複数存在する場合には、聴覚によって知覚される音の大きさは変わらなくとも、振動感覚はより大きく知覚される可能性があると考えられる。 また、「頭部の振動感覚」の閾値曲線あるいは等感度レベル曲線が、「頭部の振動感覚」知覚についての周波数補正曲線として使用できる可能性も示唆された。さらにデータを蓄積することにより、低周波音による振動感覚の評価方法の作成につながる可能性がある。
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