研究課題/領域番号 |
23330245
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山西 優二 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50210498)
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研究分担者 |
丸山 英樹 国立教育政策研究所, その他部局等, 研究員 (10353377)
吉村 雅仁 奈良教育大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (20201064)
岡本 能里子 東京国際大学, 国際関係学部, 教授 (20275811)
服部 圭子 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (30446009)
藤原 孝章 同志社女子大学, 現代社会学部, 教授 (70313583)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際理解教育 / 多言語・多文化主義 / 多文化共生 / 外国語活動 |
研究概要 |
研究目的は、国際理解教育等において重要な概念の一つとされつつある多言語・多文化主義、さらには複言語主義の立場から、地域社会・学校の教育実践、教材開発に関する現状を把握すること、次にそれらの現状に即した多言語・多文化教材を開発すること、そして学校や地域における言語的文化的少数派児童(生徒)と多数派児童(生徒)、在住外国人と日本人とを結ぶ多言語・多文化教育実践を提案することである。 まず、多言語・多文化教育実践を模索する前提として、国際理解教育の視点から「ことば」を再考した。ことばがもつ「多様性」「身体性」「文化性」「問題性」といった特性に着目すると「道具」としてだけでなく、ことばそのものを「対象」、「学習対象」として捉えることが可能である。 さらに、教材開発にあたっては、以下のような視点で教材開発にあたった。1)ことばを「道具」としてとらえるだけでなく「対象」としてもとらえ、ことばのもつ「多様性」「身体性」「文化性」「問題性」といった特性に注視した教材開発を行う。2)学習目標としての知識、態度、技能を整理した枠組み(言語と文化への多元的アプローチとその参照枠:CARAP)を参照しながらも、ヨーロッパの言語とは異なる体系をもつ日本語を相対化し、言語意識に軸をおいた教材開発を行う。3)小学校の総合的な学習の時間、地域の日本語教室、日本語学校、大学、教員研修、日本語教育指導者研修、などの場での実践を想定して教材開発を行う。 その上で、開発した教材を活用して、小学校での5年生2クラス、6年生2クラスで実践を行った。5年生に対しては10回、言語と文化への多元的アプローチとその参照枠(CARAP)に基づいた教材を用いた実践を行った。また、6年生には言語意識に関する教材を用いた実践を7回行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的に沿った理念の模索と教材開発を実施できているためである。 これまで、多言語・多文化に関する教育実践・教材開発の実態に対する調査を実施した。代表的な実践事例をあげると以下のとおりである。1)教材開発プロセスへの当事者の参加、2)企業・地域活動・教員研修が一体となった複言語教材開発、3)地域社会の市民性教育を志向する言語的多様性と一言語内の文化的多様性に着目した教材作成、4)問題解決型および少数派が親しむ物語を取り上げたデジタル教材利用、5)多言語ポートフォリオ・言語地図の活用、6)音や踊りを通した多言語・多文化感覚の学び等、である。これらを踏まえ、日本の文脈における開発に向けては、本プロジェクトでは、教室内に多言語・多文化を背景に持つ子どもが多数存在しない日本の学校現場に応じた教材開発および地域活動では参加者との協働的な教材開発を行うことも視野に入れて検討する必要性が確認された。例えば、「音源」や「映像」が提供できる手法などが考えられるということがあきらかになった。 さらに、多言語・多文化に関する教材開発および教育実践を行った。教材開発としては、多言語教材、英語教材、日本語教材などを作成している。具体的な実践として、小学校高学年を対象として多言語・言語意識に関する教材を用いた実践を行った。5年生2クラスに対して、10回、言語と文化への多元的アプローチと、その参照枠(CARAP)に基づいて開発した多言語教材を用いた実践を行った。また6年生2クラスに対して、7回、危機言語や言霊なども取り入れた言語意識に関する教材を用いた実践を行った。どちらの実践でも、有意な効果が得られた。 以上のように、理念的な深化、実際の教材開発とその教材を用いた実践の実施とそれによる評価のあり様の検討も進んでいるため、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、全体で理念を共有しつつ、教材ごとにチーム体制をしき教材開発を行っていくこととする。 まず、理念については、本プロジェクトが開発する「多言語・多文化教材」は、それぞれが関連しあう以下の4つの特性に注目しで構成される。①多様性:ことば・言語の多様性に気づく②身体性:ことばに内在する音・身体性・霊性に気づく③文化性:ことばに内在する文化性に気づく④問題性:ことばを取り巻く個人的社会的問題に気づくという4つの特性である。また、理念的に、言語意識の捉え方、国際理解教育と言語教育の関係・個人の能力と土着なもの・協力的なもの・相互学習能力(精神性・身体性)などについても探求をし、理念的な深化をめざす。 教材開発については、欧州の言語と文化への多元的アプローチとその参照枠(CARAP)に基づく教材と、「ことばをとりまく問題」教材、「音・身体・文化」教材、「日本語」教材「小学校6年間プログラム」教材を作成する。それぞれの教材ごとにチームを編成し、教材開発をすすめる。さらに、チームごとの進捗状況や成果を共有し、それぞれのチーム同士が協力する。また、その教材を実践で利用し、発展させる。 さらに、教育成果の測定・評価手法は、フィリピンやオーストラリアの先行事例なども今後の参照にしつつ、そのあり様をさぐる。 最終的な成果を発表するために、シンポジウムの開催とウェブサイトの開設を行う。シンポジウムでは、本研究の問題意識の理念の提示、調査から浮き彫りになった課題、その課題に基づいて作成した教材と実践の紹介、今後の研究課題を提示する。また、ウェブサイトでは実際に使用できるように開発した教材を公開する。
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