研究概要 |
本研究では,音楽教育の具体的な場面を想定し,これまで以上に,音楽で子どもたちの心を動かすことができるような指導法を仮説として考案し,その仮説をNIRS(Near Infra-Red Spectoroscopy)及びfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)を用いて実験的に検証する。NIRSは,脳内のヘモグロビン濃度の変化をリアルタイムに計測することができる装置で,本研究では計48chで計測することができる光トポグラフィ装置と,前頭部のみであるが計22chで計測することができる携帯型のウェアラブル光トポグラフィ装置を用いた。fMRIは,臨床磁気共鳴装置と呼ばれる非侵襲的に脳機能局在を視覚化することができる装置で,本研究では専門機関の協力を得て実験を行った。 平成23年度の実験内容は,(1)歌唱指導の場面で,「ピアノ伴奏+旋律の楽器音」で歌うときと,「ピアノ伴奏+旋律の歌声」で歌うときの比較実験,(2)歌唱指導の場面で,教師が生徒の前に立って歌うときと,教師が生徒の後ろに立って歌うときの比較実験,(3)歌唱指導の場面で,簡単な歌を歌詞の朗読を聞いて覚えるときと,歌を聴いて覚えるときの比較実験,(4)特徴をもつ複数の楽曲を鑑賞し,その違いが脳内の脳血流にどのような影響を及ぼすかを検討する実験,(5)鑑賞指導の場面で,映像があるときと,映像がないときの比較実験,(6)同一曲内で曲調の変化が大きい楽曲を用いたときの脳内の血流量の変化を検討する実験などを行った。いずれもNIRSを用いた実験をベースとし,(3)については,fMRIを用いた実験を試行的に行った。(4)については,対照的な感情価をもつ2つの作品を取り上げ,NIRSを用いての脳活動計測を行った結果,前頭部の前頭前皮質周辺の酸素化ヘモグロビン濃度に特徴が見られる可能性があることを指摘した。プラスイメージの強い曲の方が,酸素化ヘモグロビン濃度が低下するという特徴である。なお,右側頭部や左側頭部においては,その特徴は見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
音楽教育における実際の授業場面を想定し,複数の仮説を設定し実験に入ったが,NIRSやfMRIを用いた実験では被験者数が限られてしまうこともあり,その特徴を見いだすまでには,膨大な時間がかかることが予想される。今後は仮説を限定し,被験者数を増やすなどの工夫を試みたいと考えている。
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