研究課題/領域番号 |
23330271
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
東條 吉邦 茨城大学, 教育学部, 教授 (00132720)
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研究分担者 |
初塚 眞喜子 相愛大学, 人文学部, 教授 (10300211)
松井 智子 東京学芸大学, 国際教育センター, 教授 (20296792)
勝二 博亮 茨城大学, 教育学部, 准教授 (30302318)
新井 英靖 茨城大学, 教育学部, 准教授 (30332547)
三浦 優生 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 助教 (40612320)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 自閉症 / 不安 / 教育的支援 / 臨床的支援 / 保護者支援 / 表情認知 / 音声認知 / 認知科学 |
研究概要 |
自閉症やアスペルガー症候群等の自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders:以下 ASD)児者の不安感について「認知科学研究班(以下,認知班)」「臨床発達心理研究班(発達班)」「実態調査・教育支援研究班(教育班)」の3班体制で研究を推進した。 認知班(松井・勝二・三浦・長谷川・菊池・明地・東條・浅田)は,武蔵野東学園等の協力を得て,ASD児80名と定型発達児90名を対象に,顔認知,音声認知,感情理解,パーソナルスペース,アイコンタクト,実行機能等の研究を遂行し,主に以下の成果を得た。(1)アイトラッカーを用い,声の調子による感情理解について検証した結果,ASD児では言葉の意味と声の調子が矛盾する場合は言葉の意味を優先する傾向が強いが,言葉の意味と声の調子が同じ感情を指す場合には,定型発達児と同程度に感情を理解することが判明し,声の調子に集中できる状況を作ることで,コミュニケーション場面での不安感を低減できる可能性が示唆された。(2)ASD児者が他者の顔や表情に対して不安感を抱くことはよく知られた事実であり,顔,物体,顔のように見える物体等を用いて検討した。近赤外線分光装置を用いて検討した結果からは,表情変化が前頭領域での活動低下を引き起こすことが分かった。 発達班(東條・初塚・紺野・渡邊)では,家庭訪問支援活動が有効であること,乳幼児期からの不安を生じさせない環境の整備,安心感を育む家庭・保育園・学校での支援等について,保護者・支援者へのアンケート調査と聴き取り調査から検討を進めた。 教育班(新井・東條・渡邊)では,特別支援学校や通級指導教室でのASD児の不安を低減する支援のあり方について,教員を対象に面接調査を実施した。また,状態不安-特性不安検査を用いた検討からは,ASD児の不安感はその母親の不安感が強く影響を与える可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4年計画の3年目にあたり,「認知班」「発達班」「教育班」の研究とも,ほぼ順調に進行しており,これまでに得られた研究の成果については,国内及び海外の学術大会,国際的学術誌,茨城大学の研究紀要等で報告を行った。具体的には,認知班の研究からは,「ASD児ではプロソディーと言語の同時処理が困難な可能性があること」「ASD児のパーソナルスペースは定型発達児より狭いこと」などが判明し,第25回日本発達心理学会大会等で報告した。教育班の研究から得られた「ASD傾向の強さと特性不安の高さの相関は高いこと」「ASD児の母親の不安感とASD児の行動の関係」などの成果については,日本自閉症スペクトラム学会第12回研究大会や茨城大学教育学部紀要等で報告した。 また,平成25年度の途中から,「日本臨床発達心理士会茨城支部」と「心と学びの支援センターアットホーム」に当該科研課題への研究協力を依頼し,自閉症やアスペルガー症候群をはじめ,発達障害のある児童生徒の不安を低減するためのあり方や具体的な方法に関する調査研究と実践研究を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
「認知班」の実施してきた研究のうち「ASD児者と定型発達児者を対象とした不安を喚起しやすい事象や事物に関する基礎的検討」については,不安を喚起しやすい事象や事物を「コンピュータ画面で呈示」した時と「現実場面で実際に呈示」した時とでは,かなり大きな反応の差異が認められたので,平成26年度の研究では,実際場面における対象児者の反応について,液晶シャッターとアイトラッカーを用いて詳細な検討を行うことを計画している。 また,ASD児者の不安感を減らすためには視覚的構造化が有効であるという主張が,ノースカロライナ大学のショプラーやメジボブらが提唱したTEACCHプログラムによる自閉症児者支援の中核となっているが,当該科研によるこれまでの研究の成果からは,視覚的構造化を支援の柱とするよりも,相手の目を見てコミュニケーションすることの有効性や音声呈示の工夫によって不安感を低減できる可能性ついて新たな知見が得られてきているので,平成26年度の研究では,ノースカロライナのTEACCHセンターを訪問し,ASD児者の不安を低減する望ましい支援のあり方に関する研究協議を実施することを計画しており,本研究の成果の国際的発信についても推進を図る予定である。
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