本研究では発達障害に聴覚障害が加わることによって生じる困難の特徴にはどのようなものがあるのか、またどの様な教育的支援が有効であるのかを明らかとすることを目指した。本年度は具体的には、以下の3点をおこなった。 1)聴覚障害児に合わせた発達障害チェックリストの結果と担任教員の各児への印象との関連から検討する。2)状況理解をする際の視線分析を行い、談話の特徴と合わせて、発達障害(自閉症スペクトラム)単独群と聴覚障害のある自閉症スペクトラム群の違いを検討する。3)発達障害のある聴覚障害児に継続的な支援を行う中から、効果的な支援方法や教材を開発する。 発達障害を合併する聴覚障害児の鑑別し、全国実態調査を実施した。その結果日本のろう学校の子ども(知的障害合併児クラスを除く)の内約1/3が発達障害と見なされる困難を持っていた。 発達障害を合併する聴障児の鑑別のためのチェックリストの結果と教員の印象や個別の背景情報をもとに検討したところ、一致率が9割を超え、本研究で用いた鑑別リストは有効であることが示された。鑑別困難になるケースとしては、軽度知的障害、養育環境、服薬の効果、不器用さの評価があげられ、彼らに対しては一層詳細な検討が必要であると考察できた。 聴覚障害のないASD児群と聴覚障害のあるASD群の状況画注視時の眼球運動に焦点を当て、その特性を比較した。視線の運動には問題が無くてもASDがあると、状況説明が羅列的な説明となる者や加えて視線が人物にいかず、説明も事物の羅列になる者があった。そこに聴覚障害が加わると、聴覚障害に起因する言語面での弱さ(事物の関係性を記述することの困難)が強く表れ、それに加えてASD特有の事物的な説明を行うため一層症状として重篤になることが分った。定期的な介入を実施し、その指導法を提案した。
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