研究課題/領域番号 |
23330278
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研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
中村 満紀男 福山市立大学, 教育学部, 教授 (80000280)
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研究分担者 |
高野 聡子 聖徳大学, 児童学部, 講師 (00455015)
岡 典子 筑波大学, 人間系, 准教授 (20315021)
佐々木 順二 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (20375447)
米田 宏樹 筑波大学, 人間系, 講師 (50292462)
松田 直 高崎健康福祉大学, 人間発達学部, 教授 (60099942)
蒲生 俊宏 日本社会事業大学, 社会福祉学部, 准教授 (60297976)
木村 素子 宮崎大学, 教育文化学部, 准教授 (60452918)
河合 康 上越教育大学, 学校教育学部, 教授 (90224724)
園山 繁樹 筑波大学, 人間系, 教授 (90226720)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 障害児教育史 / 日本 / 盲唖教育 / 盲学校及聾唖学校令 / 劣等児 / 教育会 / 小学校 / 言語矯正 |
研究概要 |
第二次世界大戦前の日本・特殊教育制度の主要分野であった盲唖教育(①)ならびに制度としては必ずしも確立しなかった劣等児教育(②)について検討し、同時に、日本の特殊教育および特別支援教育制度を相対的に評価する基準を得るために国際調査(③)を行った。①1900年の小学校令改正により、障害児が義務教育の対象外となった段階で、盲唖教育令の公布の気運が高まったが、この好機を逃した後は、中央政府の関心は明治初期よりも低下したとみられ、対外戦略の拡大とともに資金難に陥ったために、1923年になってやっと公布された。主として今後の課題であるが、1923年勅令によって、何がどの程度改善されたのかは、厳密な評価を要する。②劣等児教育は、文部省および県当局の就学督励政策の強化・学級の制度化・学力向上政策に伴って小学校において必然的に発生する問題であったから、初等教育における主要な理論的・実践的課題となるべきであった。県によって同一の状況にはないが、劣等児指導法は、師範学校における教員養成や教育学概論書における必須事項ではあっても、初等教育界では一部を除いて理論的・実践的な深化へと展開することはなく、他のトピックと同じく、流行に結果したのである。教育の中央集権化と教育界における流行追求は、重大な社会病理であった。③日本の特殊教育および特別支援教育制度の歴史的評価を行う相対的な基準は、欧米先進国に求められる。そのために、公立学校制度の確立とそれに伴う特殊教育の成立・確立過程をカナダ・バンクーバーにおいて資料収集を行い、現代における到達状況とその条件および差異については、スウェーデンとドイツのインクルーシブ教育を現地調査した。義務教育制度の確立と特殊教育の成立・展開は先進国においてはセットとなっている一般的な現象であり、インクルーシブ教育にはそれぞれの条件によってかなり異なる方向と内容を選択している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の下位分野や担当者により進捗状況には多少の違いはあるが、概ね順調に進展している。 1.手話法・口話法の複雑さが、徐々に解明されつつある。 2.大正12年(1923)年盲学校及聾唖学校令による教育の質の向上への効果は、限定された項目では顕著にみられるが、必ずしも順調に進行したのではないし、学校間格差も拡大している。 3.第二次世界大戦後と戦前の特殊教育における連続性・不連続性は、研究界における輸入学的傾向と教育界における流行追求的体質から考えると、連続性が残存したままであったのではないか。 4.劣等児問題については、県による優先順位は異なるように思われるが、生徒中における劣等児の高い割合から考えて、教育現場における重要事項であった。しかし問題に対する認識と実践化については顕著な格差が存在した。 5.県教育会誌については、1県ごとに60-70年間のバックナンバーを検索するために、研究の見通しがややつきにくくなっている。
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今後の研究の推進方策 |
以下の課題に焦点を合わせて進行させ、最終年度のまとめに備える。 1.通説で言われている以上に手話法およびその支持基盤が堅固であり、そのインフォーマルな組織の検討、聾唖学校における非口話法的指導法の健在、口話法運動における実践的深化の拡大困難についての実態的検討が必要である。 2.大正12年(1923)年盲学校及聾唖学校令による教育の質の向上への効果は、県立移管による生徒数の増加等に伴って、どの程度、実体化したのかを実態的に検討する必要がある。 3.第二次世界大戦後と戦前の特殊教育における連続性・不連続性について、政治体制の根本的変化により、不連続性が強調されてきたと思われるが、法制度の有無のみならず、言説・教育会および関係者の運動等、多元的に検討することにより、連続性がかなりあったのではないか。 4.劣等児問題については、就学率の高さと劣悪な指導条件、貧困問題の深刻化等を考えれば、日常的な重要課題全体としては存在していたはずであり、教員養成・講習会等でも取り上げられていたが、研究・実践とも継続しなかったものと思われる。そのなかで、高度な実践レベルに達した指導も存在したと考えられる。劣等児問題に関する論稿の量だけではなく、質を問う必要がある。
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