研究課題/領域番号 |
23340005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中島 啓 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (00201666)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 代数学 / 幾何学 / 表現論 |
研究実績の概要 |
物理学者の Alday-Gaiotto-立川によって発見されたゲージ理論とW代数との対応を、数学的に厳密な立場から「インスタントンの枠付きモジュライ空間の上で、同変コホモロジー群自体を考えると、それがW 代数の表現の構造を持ち、様々なコホモロジー類が、W 代数の頂点作用素などを用いて書き下される」と理解し、これに証明することを目指すために、平成23, 24年度に行った研究の細部を詰め、論文を執筆した。 まず、群がU(1)のときには、Lehnによって得られていたヒルベルト概型のコホモロジー群へのVirasoro代数の表現の構成が基本であったので、これをJack多項式と局所化を組み合わせて、self-containedに証明することをレクチャーノート形式の論文として執筆した。 次に、Braverman-Finkelbergとの共同研究である、ADE型のインスタントンモジュライ空間の上の交叉コホモロジー群にW代数の表現の構造を入れる、という結果をまとめた論文を、上の論文に続いて執筆した。様々な分野にまたがる先行研究を引用しつつ、読者に読みやすいようにまとめるために、120ページを超える大著となった。 論文執筆以外には、繰越の理由となったインスタントンモジュライ空間の交叉コホモロジー群を用いたKazhdan-Lusztig予想への新しいアプローチについて、さらに研究をすすめた。特に、交叉ホモロジー群の全体の次元だけではなく、各次数の次元に意味をもたせた、いわゆる Jantzen 予想について、幾何学的に証明する方針をつけた。この結果は、アファイン・リー代数の場合には従来の手法では知られていなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
W代数の表現の構成の論文の執筆に予定よりも時間がかかったこともあってか、Kazhdan-Lusztig予想への新しいアプローチに関しては、論文の執筆が予定よりも遅れつつある。 一方、概要に述べた研究成果の他に、ヒルベルト概型へのトーラス作用の固定点集合のベッチ数の計算について研究し、組み合わせ論を用いていたBuryak-Feiginの証明を、幾何学的な証明に置き換えた。 また、量子アファイン展開環が、Koenig-Xiの意味でのアファイン・セルラー代数であり、さらにセル・イデアルが idempotentであることを証明した。前者は、Cui (arXiv:1405.6441) に以前に代表者がBeckとの共同研究で得た結果を用いて証明されていたが、やや回りくどい議論であったものを、直接的に変えたものである。 この研究を受けて、箙多様体のコホモロジー群の次元に、重要な表現論的な意味があると考えて、考察を始め、Kac多項式との関係について観察した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、インスタントンモジュライ空間の交叉コホモロジー群を用いたKazhdan-Lusztig予想への新しいアプローチについて、研究を行う。 箙多様体のコホモロジー群の次元とKac多項式との関係については、さらに考察を進め、アファイン・セルラー代数の構造に代表されるような表現のホモロジー的性質などと結び付けたい。特に、有限型のときにしか知られていない、フェルミ公式の一般化を目指す。 さらに、コンパクト・リー群 G と、その四元数体上の表現 M が与えられたとき、物理学者は3次元のN=4超対称性ゲージ理論とよばれる場の量子論を考え、特にそのゲージ理論のクーロン枝とよばれる、超ケーラー多様体を研究していた。しかし、その定義には、「量子補正」とよばれる数学的に厳密な取り扱いがなされていない手続きが含まれており、クーロン枝の数学的な定義は与えられていなかった。そこで、数学的に厳密な定義を与える試みを行うことを計画している。
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