研究概要 |
複素多様体間の固有正則写像f:X→Yと,X上のf-豊富な正則直線束Eに対して,順像層R^{n-p}f_*(Ω_{X/Y}^pxE)やR^{n-p}f_*(Ω_X^{p+m}xE)がもつ基本的な性質;ねじれ自由性,局所自由性,正値性を研究した.ここでdim Y=m,dim X=n+mである.特にEが相対標準束K_{X/Y}と取れる場合が興味深い.得られた結果は以下の通りである. 定理1.f:X→YおよびEは同上とする.pは0≦p≦nなる整数とし,(3)と(4)においてfは滑らかと仮定する.このとき,(1)q>0ならばR^{n+q}f_*(Ω_X^{m-q}xE)=0である.(2)R^{n-p}f_*(Ω_X^{p+m}xE)は捩れ元を持たない.(3)R^{n-p}f_*(Ω_X^{p+m}xE)は局所自由である.(4)次の自然な完全列が存在する.さらに二つ目の全射は分裂する.T_YxR^{n-p-1}f_*(Ω_{X/Y}^{p+1}xE)→R^{n-p}f_*(Ω_{X/Y}^pxE)→R^{n-p}f_*(Ω_X^{p+m}xE)xK_Y^(-1)→0.ここで一つ目の写像は小平-スペンサー写像T_Y→R^1f_*T_{X/Y}を通してR^{n-p-1}f_*(Ω_{X/Y}^{p+1}xE)の元とのカップ積により誘導された連結準同型で,二つ目の写像は自然な包含Ω_{X/Y}^pxf^*K_Y→Ω_X^{p+m}から誘導された射である. 定理2.f:X→YおよびEは同上とする.さらにfは非特異とし,Eはエルミート計量hでその曲率ωが正であるものを許容するとする.このときベクトル束R^{n-p}f_*(Ω_X^{p+m}xE)xK_Y^{-1}にωとhから自然にエルミート計量gが定まり,gの曲率はGriffiths正である. これらの結果を得るための鍵となった議論は,順像層R^{n-p}f_*(Ω_X^{p+m}xE)を,Yを局所化することにより,コホモロジー群H^{n-p}(X, Ω_X^{p+m}xE)と見たときに,その調和積分論が存在することを示し,その調和微分形式がもつ性質を詳細に調べることにあった.定理2の計量gの曲率の計算にも調和形式の詳細な表示が重要である.
|