研究実績の概要 |
本年度の研究の主なものは以下の通りである. 複素多様体間の射影的な正則写像f : X → Yを考える. Yは単位円板(または曲線)とし, 相対アンプルなX上の直線束Lが与えられているとする. さらにYの原点0以外ではそのファイバーX_tは滑らかで, 標準束K_{X_t}は自明であるとする. ただし原点のファイバーX_0は特異点を許すものとする. このときに以下の三つの性質に注目をすることは基本的である. (i) 滑らかなファイバーX_tのリッチ平坦なKaehler-Einstein計量g_t (そのコホモロジー類はL_tに属する)のt → 0のときの振る舞い. (ii) Y - 0に定義されるWeil-Petersson擬距離の完備性. (iii) 特異ファイバーX_0としてはどのようなタイプのものが可能か? この種の問題意識は小平の楕円曲面の研究に端を発している. より近年では1990年代後半にWangが一般次元での研究を開始し, 最近ではTosattiがその研究を発展させている. 背景には, 近年の代数幾何における極小モデル理論の発展や, Donaldson-Sun, Tianらによる特殊ケーラー計量の存在問題に関する研究の発展がある. 本年度の研究はこの一連の研究に最終的な解答を与えるものである. すなわち適切な設定の下で, 以下の三つが同値であることを示した. (1) 滑らかなファイバー(X_t, g_t)の直径はtに関して一様有界である. (2) Y - 0上のWeil-Petersson擬距離は完備ではない. (3) 特異ファイバーX_0と高々標準特異点しかもたない.
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