研究実績の概要 |
本年度の研究の主なものは以下の通りである. f : X --> Yを複素多様体間の射影的な正則写像, その一般ファイバーX_y=f^{-1}(y)の小平次元k(X_y)は半正とする. このとき相対多重標準束mK_{X/Y}に, Bergman計量と同様な構成で得られる, 標準的に定まる特異エルミート計量h_mを構成することができる. そしてさらに順像層f_*(mK_{X/Y})にはh_mに付随して定まるNarasimhan-Simha計量と呼ばれる標準的な特異エルミート計量g_mを入れことができる. これらh_m, g_mがともに半正な曲率をもつこと, その滑らかさ等について研究した. まず, Yは単位円板とし, 原点0 \in Y以外ではそのファイバーX_tは滑らかであるとする. ただし原点のファイバーX_0は特異点を許すものとする. このときにg_mの0 \in Yの近くでの漸近挙動を研究した. 写像fのX_0での特異性を表す代数幾何的に定義される数値として, 次のlog-canonical threshold (lct) がある. r_0 =lct(X, rX_0) = {r > 0 ; 組(X, rX_0)はログ標準的}. これを用いてg_mの特異性の上からの評価を得た. 各m>0と各切断u \in H^0(Y, f_*(mK_{X/Y}))に対して, t --> 0のとき, g_m(u,u)(t) < C (|t|^{-2(1-r_0)} (- log |t|)^n )^mを示した. 特に組(X, X_0)がログ標準的のときにはr_0=1であり, g_m(u,u)(t)は高々対数的な発散(- log |t|)^{nm}になることが得られる. 底空間Yが一般次元でも適当な仮定の下で, dim Y =1の場合の結果が応用できる場合がある. 例えば藤野氏(京大)の結果, 順像層f_*(mK_{X/Y})の数値的半正性に関する定理のある精密化を得ることができた.
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