研究概要 |
BorcherdsΦ関数の代数的表示とその応用について詳細に研究した.極めて重要な楕円モジュラー形式として,Dedekindのη関数が19世紀以来詳しく研究されたきたが,BorcherdsΦ関数は様々な意味でその自然な高次元化である.Dedekindのη関数の異なる三つの表示,即ち,無限積展開あるいはFourier級数展開,楕円曲線の解析的振率としての表示,楕円曲線の判別式としての表示は19世紀以来知られているが,BorcherdsΦ関数については(そのEnriques曲面との強い関係にも拘らず)いかなる代数的表示も知られていなかった.(無限積展開とFourier級数展開についてはBorcherds自身が示しており,Enriques曲面の解析的捩率としての表示は当該研究者により示されていた.)2011年度に行った向井茂(京大・数理研),川口周(大阪大学)両氏との共同研究により,一般のEnriques曲面の周期におけるBorcherdsΦ関数の代数的表示を得る事ができた.一般のEnriques曲面が5次元射影空間の(2,2,2)型完全交叉を対合θ(x,y,z,u,v,w)=(x,y,z,-u,-v,-w)で割って得られる事は20世紀初頭以来知られているが,この表示を用いてBorcherdsΦ関数の代数的表示を得る事ができる.θで不変な2次式はx,y,zの2次式とu,v,wの2次式の和になるので,θ不変な(2,2,2)完全交叉には自然にx,y,zに関する3個の2次式とu,v,wに関する3個の2次式が対応する.それぞれの3個の3変数2次式から終結式が得られるが,BorcherdsΦ関数はこれら2個の終結式の積と(2,2,2)型完全交叉から定まるPoincare留数形式の適当な2-サイクル上の積分として得られる.この様に,Dedekindのη関数で成り立っていた等式が,ほぼそのままの形式でBorcherdsΦ関数に拡張できた.
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