研究課題/領域番号 |
23340017
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉川 謙一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20242810)
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研究分担者 |
松澤 淳一 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (00212217)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 解析的捩率 / モジュライ空間 / 保型形式 / K3曲面 / BCOV不変量 / Calabi-Yau多様体 |
研究実績の概要 |
(1)研究代表者が2004年に導入した対合付きK3曲面の解析的捩率不変量を、全ての変形型に対してモジュライ空間上の関数として決定した。結果として、解析的捩率不変量は或る一系列の楕円モジュラー形式のBorcherds持ち上げと偶テータ定数の基本対称式の積のPeterssonノルムとして表示される。この研究は馬昭平(東工大)との共同研究であり、現在論文準備中である。 (2)Borcea-Voisin型Calabi-Yau多様体のBCOV不変量が、研究代表者が2004年に導入した対合付きK3曲面の不変量とDdekindのエータ関数のPeterssonノルムの積として得られる事を示した。(1)で得られた結果と併せると、Borcea-Voisin型Calabi-Yau多様体のBCOV不変量がモジュライ空間上の関数として決定される。研究代表者の知る限り、これはBCOV不変量が決定された最初のCalabi-Yau多様体のクラスである。 (3)適当な条件を充たすCalabi-Yau軌道体に対してBCOV不変量を定義し、それが充たす曲率方程式を決定した。特に、(1)の結果と併せると、Borcea-Voisin型Calabi-Yau軌道体のBCOV不変量がモジュライ空間上の関数として決定される。 (4)Calabi-Yau多様体の代数的一径数退化族に対して、BCOV不変量の漸近挙動を決定した。応用として、BCOV不変量の特異点の適当な条件下での局所性が示され、それが(2)を示す際に本質的役割を果たした。 (5)研究分担者は、クンマー曲面および関連するK3曲面を接触幾何の観点から(特に微分方程式の立場から)捉える研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
対合付きK3曲面の解析的捩率不変量をモジュライ空間上の関数として決定するという研究課題(2)が完全に解決した。研究期間の5年間で不変量の定める関数の決定をする計画であったが、それが最も望ましい形で4年間で解決されてしまったので、課題(2)については当初の計画以上に進展した。
本研究によりBorcea-Voisin型Calabi-Yau多様体のBCOV不変量がモジュライ空間上の関数として決定され、その結果このクラスのCalabi-Yau多様体のBCOV不変量の保型性が証明された。この事から、課題(1)に対しても当初の計画以上に研究が進展したと考えられる。
Calabi-Yau多様体の一径数退化族に対して、BCOV不変量の漸近挙動を特異ファイバーの変形芽から定まる特性類や標準類を用いて記述する問題も解決された。これも予想以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
対合付きK3曲面の解析的捩率不変量に現れるBorcherds積の起源を探求する問題は、本研究の結果生じた新しい課題である。特別な族に限定されるが、Borcherds積に現れるベクトル値モジュラー形式は楕円種数と関係する事がHarvey-Mooreにより知られている。全ての族に対して、Borcherds積に現れるベクトル値モジュラー形式が楕円種数として理解可能かどうかという問題は、大変興味深い課題である。この課題はヘテロティック弦理論とII型弦理論の双対性の数学的検証にも深く関わるものと思われる。また、対合付きK3曲面の解析的捩率不変量の決定は、普遍定数を除いてのものである。従って、普遍定数の決定もこの分野に残された課題である。特別な場合、即ちEnriques曲面の普遍被覆K3曲面の場合に、Arakelov幾何学における算術的Riemann-Roch定理やLefschetz不動点定理を用いて、この普遍定数の素性をある程度絞り込む事が可能である。この様な方針で、普遍定数の決定問題にも取り組みたい。
対数的Enriques曲面の解析的捩率不変量をモジュライ空間上の関数として決定する。課題(2)に現れるBorcherds積を用いてこの不変量も表示される事が予想される。
BCOV不変量の充たす曲率方程式はCalabi-Yau多様体のモジュライ空間の標準類について有力な情報を提供する。それを用いてCalabi-Yau多様体のモジュライ空間の双有理型の研究を開始する。また、解析的捩率を用いて、高次元Calabi-Yau型多様体の不変量を構成し、モジュライ空間の理解に役立てたい。特に、Enriques型Calabi-Yau多様体に対して、このアプローチでBorcherdsがEnriques曲面のモジュライに対して示した結果の高次元化が期待される。
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