研究実績の概要 |
(1) 研究代表者は2004年に出版した論文において, 同変解析的捩率を用いて対合付きK3曲面の不変量τを導入し, 不変量τがモジュライ空間上の判別式軌跡を特徴付ける保型形式のPeterssonノルムとして表示されることを示した. それ以来この不変量τの研究を継続してきたが, 今年度に馬昭平と行った共同研究により, 不変量τのモジュライ空間上の関数としての構造を決定することに成功した. 即ち, 不変量τをモジュライ空間上のBorcherds積とTorelli写像によるSiegel保型形式の引き戻しを用いて明示的に表示した. また, 不変量τを適当に捩じることにより, 解析的捩率不変量として純粋にBorcherds積を取り出す方法を見出した. (2) アーベル的3次元Calabi-Yau軌道体に対するBCOV不変量を構成し, 大域的軌道体の場合にBCOV不変量が充たす微分方程式を決定した. 特別な場合として, Borcea-Voisin多様体とBorcea-Voisin軌道体のBCOV不変量を決定し, 特に両者が等価であることを確認した. この研究以前にはBCOV不変量が明示的に求まっていたCalabi-Yau多様体はミラー5次超曲面と一部のBorcea-Voisin多様体のみであったが, これにより始めてCalabi-Yau多様体の一つのクラスに対してBCOV不変量が決定された. また, ここで得られた結果とBershadsky-Cecotti-大栗-Vafaの予想を比較することにより, 或るSiegelモジュラー形式のTorelli写像による引き戻しがBorcherds型無限積で表示されるという予想が得られる. この予想が正しければ, 非標準的保型因子に対するBorcherds積の理論の一つの拡張が得られる事になり, 予想外の展開である. (3) (1)の副産物として, 平面6次曲線の周期行列式と判別式との積が, 明示的なSiegel保型形式とBorcherds積の積として表示されることが示される.
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