研究概要 |
本年度の主な研究成果は以下の通りである。 1.格子模型におけるこれまでの研究を踏まえて、可積分場の理論の代表例である Sine-Gordonモデルを考察した。局所場の空間の「フェルミオン基底」を定式化し、それらの1点関数および形状因子に関する一連の予想を得た。1990年代半ばにBernardらにより、形状因子の数え上げの道具としてある種のフェルミオンが導入されていたが、それが上記基底を作るフェルミオンと同一の対象であることを(物理のレベルの厳密さではあるが)確認することができた(F.Smirnov,三輪哲二との共同研究)。この2つのフェルミオンは全く別の構成法に基づいて導入されたもので、両者が一致することは予期していなかった。この事実は、局所場の空間の記述においてフェルミオンが基本的であることの一つの証左と考えている。 2.量子アフィン代数のKR加群の極限としてボレル部分代数の基本表現を構成し、 量子アフィン代数の場合と類似の、最高ウエイトによる既約表現の分類を確立した(D.Hernandezとの共同研究)。ボレル部分代数は、BaxterのQ作用素や格子模型におけるフェルミオンの構成に重要な役割を演じるが、組織的な研究は行われていなかった。 3.gl(1)型量子トロイダル代数(Ding-lohara代数)のMacmahon加群とよぶ新しいクラスの表現を導入し、特別な場合には指標を決定した(B.Feigin,E.Mukhin,三輪哲二との共同研究)。Macmahon加群は各ウエイト空間が1次元であり、表現の行列要素がすべて因数分解した形で具体的に記述できるという著しい性質を持っている。トロイダル代数は15年ほど前に導入され、Macdonald多項式やW代数,AGT予想などとの関係で最近再び注目を浴びているが、表現の構成は初期の数年を除き、これまでほとんどなされていなかった。
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