研究課題
本研究では、1.赤方偏移6.5を超える超遠方QSO の発見、2.赤方偏移6付近の遠方QSOの特に暗い種族を検出すること、の2つの目的を達成するために、すばる望遠鏡の(1)大集光力と(2)広視野撮像機能、及び(3)特殊なフィルターを用いるという、この3つの有効な手段を組み合わせる手段を持っているのは現在、研究代表者のグループだけである。研究代表者らは、本研究のための予備観測として、これまでにすばる望遠鏡/ケック望遠鏡/VLTの観測時間を獲得し、その実効性の検証を行ってきた。これまでの観測によって、暗い赤方偏移6付近の遠方QSOを2つ発見し、平成25年度はこの発見の統計的信頼度、サンプルの完全性の検証、独立な選択法による検証、初期宇宙における個数密度の評価などを行った。この成果についていくつかの学会で成果発表を行った。この2個のQSOについて近赤外追観測を行い、MgII輝線の線幅からブラックホール質量の決定を試みたが、残念ながら天候に恵まれず、この観測の成果は得られなかった。引き続きこの方向性を追求してゆく。また、遠方QSOの形成に大きく関与する初期大規模構造の観測について一定の成果が挙がり、海外研究者と協力した理論モデル予測との比較も加えて現在論文を執筆中である。遠方QSOを用いた吸収線系の研究について論文を発表した。平成26年3月からはいよいよ本観測が開始され、平成26年度中にある一定のデータが獲得される予定であるが、内外の研究者と詳細なサーベイ計画の立案、画像処理の問題点の洗い出し、有効な選択方法の開発と確立、追観測の方針決定などについて議論を重ねた。これらの検討では本観測における研究代表者らの行ってきた予備観測での経験が活かされた。特に有効な選択方法については、新しい手法の開発にほぼ成功し、この手法によってより完全なサンプルの獲得できることを立証し、赤方偏移3-5にかけてのQSOにも十分適用できることを示した。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度はすばる望遠鏡の事故のために観測を遂行することができず、計画の見直しを余儀なくされたが、平成24年度に外国の望遠鏡を用いることで克服した。これにより研究計画に若干の遅れが生じたが、その後の観測はほぼ順調に進められている。平成25年度の近赤外線観測は残念ながら天候不順のために成果を得ることができなかった。この再挑戦を試みつつ、現在、赤方偏移6の遠方QSOの発見についての論文を執筆中である。一方で本観測がいよいよ平成25年3月に開始された。これは当初の予定より約1年遅れているが、主に上記に述べたすばる望遠鏡における事故、それに伴う新観測装置の開発の遅れが原因である。しかしその間の予備観測、予備研究を通じて、着実に準備は固められてきていると認識している。新しい選択手法の開発については、独立な3つのサンプルにおいてその有効性を実証したが、まだ細かな課題を抱えているので今後解決していきたい。初期大規模構造については、理論モデルとの定量的な比較方法を提案し、われわれの発見した初期銀河団が現在どれくらいの質量をもつ銀河団に成長しているか、どれくらいの宇宙空間範囲にある初期銀河が将来銀河団銀河に成長するかについての知見を得た。この方法は今後の研究に大いに活かされることが期待される。これらの成果については内外の学会で成果報告を行い、いづれも高い評価を受けた。今後論文にまとめる予定である。さらなる成果を挙げるために、これまでの観測やデータ解析の手法に改良を加えている。また新たに、QSO吸収線系の研究、理論モデルとの比較、QSO周囲環境における銀河形成に関わる研究など、本研究に密接に関連しながら当初は予定していなかった研究の方向性も萌芽しており、1,2点目については海外研究者との共同研究が開始され、3点目については平成26年度に既に観測が予定されており、本観測に向けて今後の進展が期待できる。
平成25年度までの予備観測、予備研究における、遠方QSOの発見と初期大規模構造の研究の2つの成果について本年度中に成果発表する。これらの研究課題の追観測については現在観測時間申請中である。今年度から本格的に開始する本観測に向けての技術的課題として、(1)新しい遠方QSO選択方法についての詳細な調整と応用検証、(2)可視光撮像データと近赤外線撮像データのマッチング方法についての確立、(3)画像上の人工的シグナルの除去方法についての確立、が挙げられる。これらの課題は本研究に留まらず、多くの他分野の研究に共通した課題なので、解決方法について共同研究者と議論を重ねながら本年度中に目途をつけ、これから5年間にわたる本観測への基礎固めを行いたい。もし初期データが十分に獲得できれば追観測に向けての観測時間獲得へも努力したい。平成25年度、再電離のトポロジーに関わる重要な問題として最遠方にある原始銀河団に関わる研究として、(1)赤方偏移3-6にわたる宇宙のグローバルな歴史における原始銀河団の進化、(2)QSOと原始銀河団の関係、について新たな研究の方向性を見つけたので、(1)については、他望遠鏡で取得されたアーカイブデータに対するこれまでの手法の応用および理論モデル予想との比較、(2)についてはすばる望遠鏡における追観測が平成26年5月に予定されているのでその初期成果を挙げたいと考えている。遠方QSOの研究と並行して研究を進める上で、初期宇宙における環境と、再電離、そしてブラックホール、QSO活動性の発現、の間の相関について、さらにはブラックホールと銀河の共進化についての考察を進めたい。同時にQSO吸収線系の研究という新たな方向性について海外研究者と共同研究を開始した。本研究は平成26年度が最終年度にあたるので上記に掲げたいくつかの課題を解決しつつ、確実に複数の成果を公表し、本研究のとりまとめとしたい。
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The Astrophysical Journal
巻: 780 ページ: 116-123
10.1088/0004-637X/780/2/116
巻: 780 ページ: 122-149
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巻: 772 ページ: 99-118
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