今年度はまず、2014年3月のBICEP2チームによる宇宙論的重力波の極長波長モードの『発見』を受けて、それと整合的なカオティックインフレーションモデルとナチュラルインフレーションモデルを仮定した場合、スペースレーザー干渉計DECIGOによって、その重力波の短波長成分を観測した場合、宇宙の再加熱温度を決定できる範囲を、双方のモデルの場合に、フィッシャー解析によって明らかにした。 また、このような重力波がインフレーション中の量子重力効果ではなく、スカラー場の二次のゆらぎによってできる可能性を検討した。その結果、観測されたような重力波(テンソルゆらぎ)がスカラー場によって生じる場合には、必ず観測値を上回る曲率ゆらぎができてしまうことを明らかにした。 しかしその後BICEP2の結果はダストによる見かけの信号であると考えられるようになり、観測とより整合的なのは、カオティックインフレーションモデルではなく、スカラー曲率の自乗項を用いたスタロビンスキーモデルだということになった。そこで、このモデルの超重力版におけるインフレーション後の宇宙の再加熱機構を詳細に解析し、ビッグバンの温度を明らかにした。 本研究計画のもう一つの目的である、3次元格子上でのスカラー場の進化に伴う重力波生成については、まずインフレーション後にモジュライ問題を解決する有力手段である熱的インフレーションのダイナミクスを解析した。従来、熱的インフレーションはバブルの衝突を伴う一次相転移によって修了し、その際重力波が発生すると考えられてきた。しかし本研究によって、相転移はクロスオーバー型であり、なめらかに起こるので、重力波は生成しないことが明らかになった。またこのコードを用いて大域的相転移後の多成分スカラー場の一様化の際生成する重力波のスペクトルを計算し、これによって宇宙の再加熱温度を測定できることを明らかにした。
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