素粒子物理学の分野では、ニュートリノに質量が有ることを示すニュートリノ振動の測定が、最重要研究テーマの一つである。ニュートリノ振動角θ13は小さいので、原子炉ニュートリノの測定を行うときの系統誤差(1%程度)をより小さくするために、小型で安全で原子炉建屋内で使うことができる固体原子炉ニュートリノ検出器の開発を行ってきた。本研究はこれをさらに進めて、ウランとプルトニウムの核分裂によるニュートリノフラックスとエネルギースペクトルの違いから、原子炉燃料中のプルトニウム量を10%の精度でモニターできるシステムを開発しようとするものである。Gdをドープした安価なシンチレータの開発をミンダナオ大学の研究者と共に行う計画であるが、その前に、材料系の日本企業が試作したシンチレータサンプルを用いて、小型のプロトタイプ検出器を製作し、その性能評価テストを行った。また、ニュートリノ検出器の小型プロトタイプについてのシミュレーションも行った。 1)企業の協力のもと、厚さ3mm 程度のGd入りプラスチックシンチレータ板を試作した。このGd入りプラスチックシンチレータ板について、その発光量や光の減衰長の測定などをβ線源を用いて行った。この結果を現在、投稿論文としてまとめている。 2)Gd入りプラスチックシンチレータを用いて、ベンチテスト用の小型プロトタイプ検出器を製作した。これに対して中性子線源(Am/Be線源)を用いて、擬似ニュートリノ反応検出のベンチテストを行った。検出器に対する空気中や床からの中性子、γ線バックグラウンドを遮蔽するために、全体を鉛ブロックやボロン入りポリエチレンブロックで覆い実験を行った。その結果、擬似ニュートリノ反応イベントで生じる中性子を検出できた。また、この検出器のMCシミュレーションを行い、実験で測定された中性子捕獲時間(約20マイクロ秒)をほぼ再現した。
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