研究課題
開発した窓なし固体水素(重水素)ターゲットを用いた実験(IRIS)をカナダのTRIUMF-ISAC2において行った。実験の目的は陽子非弾性散乱による11Liの低励起状態探索で、用いた11Liビームは核子あたり6 MeVである。この実験に要求される固体水素ターゲットの厚さは50~100 micron である。真空中で小型GM冷凍機により4 K以下に冷却された低温の純銀箔(t=5 micron)表面上に室温の水素ガスを吹き付けて固体水素薄膜を作成した。この吹き付け用のノズルには水素ガスが均一に広がるように、ステンレス20 micron の粉末を焼結した厚さ2 mmのディフューザーを使用した。吹き付けを行った水素ガスの銀箔表面への吸着率は、吹き付け中における真空容器の真空度の上昇とポンプの排気速度から99 %以上であると見積もられた。作成した固体水素の温度を約4 K以下、固体重水素の場合は温度を約5 K以下に保った場合、その蒸気圧は断熱真空よりも十分低く、蒸発量も無視できるようになり長時間の散乱実験に使用できる。IRIS実験中は11Liビームのターゲットでのエネルギーロスを測定し、ターゲットの厚さを常時モニターした。その結果、ターゲット厚さは固体水素の場合は 8~24時間で半減したので、厚さが約1/2になると水素ターゲットを作成し直した。このターゲットの減少率は主に運転時のターゲット温度と水素(重水素)の蒸気圧で決まる。ターゲット温度と蒸気圧を下げて減少率を小さく保ちながら粒子検出器への散乱立体角を大きくとるために、輻射シールドを実験に合わせて最適化するために試行錯誤を行った。陽子非弾性散乱による11Liの低励起状態の探索実験の結果は現在解析中であるが、今後さらに統計を上げるために実験を継続していく。また、固体水素、重水素を用いた新しい課題の実験も順次行っていく。今回開発したターゲットの作成方法は融点が固体重水素以上の種々の低温ガスにも応用可能である。
25年度が最終年度であるため、記入しない。
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