研究課題/領域番号 |
23340080
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小林 仁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 名誉教授 (80133099)
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研究分担者 |
吉岡 正和 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 名誉教授 (50107463)
松本 浩 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器科学支援センター, シニアフェロー (90132688)
栗原 俊一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 講師 (60215069)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / 陽子加速器 / 中性子発生 / 水素脆化 / ブリスタリング / 偏光 / その場観察 |
研究概要 |
陽子加速器による高強度中性子発生用標的の開発の要点は、標的材料の放射線損傷、照射損傷、特にブリスタリングと呼ばれている現象への対策である。ブリスタリングは陽子を固体に照射した場合、物質中で電子を捕捉し水素原子、水素分子となって、物質中の結晶格子を破壊する現象である。陽子線による中性子標的の照射で中性子を生成する場合、この現象を避けることは困難を伴う。われわれはこの現象を理解するために、陽子線の照射をしながら、その場でブリスタリングの動的観察をする方法を考案し、その装置を開発した。本年は、所属機関にある750keVコッククロフト・ウォルトン陽子加速器のビームライン下流に本装置を設置し、意図した観察が行なえるか試験した。試験片として陽子線による中性子標的を構成する材料のなかでもっともブリスタリングに弱く、また現段階で提案している中性子標的第1世代で冷却材料として多く使われる銅を用いた。銅はブリスタリング発生の閾値はいくつかの文献より得られている。これが正しいかどうかの検証と、ブリスタリング発生までの初期過程および破壊に至る照射中のその場観察を行なうことを目的とした。平均電流約25μAのH-ビームを用い、1.8x10^22m^-2でブリスターが完全につぶれるまでを観察した。その場観察は偏光を用いた長距離偏光顕微鏡観察、ブリスターによる表面の光の反射率の低下測定、そして水素ガスの残留ガス分析計による観測と3種類の手法を用いてブリスタリングという現象を探求した。 なお、耐ブリスタリング特性を持たせる標的の開発のために、三層構造の標的を提案したが、そのための接合試験ならびに熱分布測定の予備実験を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子標的の熱問題に関しては基本的な検討がなされ設計に反映されている。放射化物に関しては満足できる結果が得られている。ブリスタリングに関してはその場観察の装置が開発され、初めてビーム照射中のブリスタリング生成の初期段階から破壊まで、特定の金属に対してのその場観察が行なわれた。その結果から、考案した装置が満足いく性能を示すことが判り、開発が成功したことが確認された。次年度から様々な物質のブリスタリング特性を明らかにし、中性子標的として有望な物質の組み合わせを探索することが期待される。 本年度の研究成果として、1.ブリスタリングのその場観察装置の開発に成功した。2.手始めに行なった銅試料を標的とした陽子線照射実験で本装置が有効に働くとともに、光の反射率だけでは検出できない、ブリスタリングによる微小な表面の変化が偏光顕微鏡により捉えられ、銅に関してはかなり初期の段階からブリスタリングが起こっていることが判ってきた。3.ブリスタリング現象をさらに総合的に理解する方法の切っ掛けとなる現象を捉えることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今回、開発されたブリスタリングのその場観察装置を用いて既存の技術の組み合わせで達成できる中性子標的第1世代のための物質のブリスタリング特性を明らかにする。さらに低放射化物でブリスタリングに耐性を示す物質の探索を行なう。また、結晶構造に着目した標的材料を提案しているが、その評価をその場観察装置で行なう。 耐ブリスタリング特性を持たせる標的の開発のために、三層構造の標的を提案したが、そのための熱試験を行ない、熱分布測定、熱伝導率測定等を行なう。
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