研究課題/領域番号 |
23340089
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
館山 佳尚 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (70354149)
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研究分担者 |
袖山 慶太郎 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (40386610)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 物性基礎論 / 表面・界面物性 / 触媒・化学プロセス / 化学物理 / 計算物理 |
研究概要 |
(A) 空間分割第一原理計算手法を利用したconstraint schemeの開発については(1)FMO-LCMO法の高精度化および(2)マルチQM/MM手法の更なる開発を行った。FMO-LCMO法は各フラグメントの電子状態から全系のフロンティア軌道を簡便に求める計算手法である。このフロンティア軌道を用いることによりドナー・アクセプター間の電子移動の記述が可能になる。今年度はこの高精度化の一環として3体項を取り込んだプログラムの作成および実証作業を行った。この内容は現在論文投稿中である。マルチQM/MM手法の開発に関しては、まず現段階のプログラムを用いてドナーと水和水、アクセプターと水和水を包含する2つのQM領域を設定し、その間の電子移動に関する反応自由エネルギー(酸化還元電位)および再配置自由エネルギーの距離依存性を求めた。これにより再配置自由エネルギーが距離に大きく依存する一方、酸化還元電位は比較的独立していることが明らかになった。さらにドナー領域、アクセプター領域のフロンティア軌道を始状態・終状態として用いた電子移動過程の電子結合行列の計算コードの導入にも取り組んだ。 (B) 閉空間電子数に対するconstraint schemeを用いたDFT分子動力学解析については、研究協力者であるJ. Blumberger博士らが開発しているプログラムについてさらなる検証を行った。移動する電子波動関数の広がりによる計算手法の破綻条件について現在も取り組んでいる。一方でこの手法の応用先と考えている色素増感太陽電池系のTiO2/色素/溶媒/酸化還元媒体に関する構造・電子状態の解析も進めた。電子移動に関連して、電解質溶液中の酸化還元媒体の酸化還元電位を見積もるための簡便な第一原理計算手法を開発し、代表的媒体であるアセトニトリル中のCo錯体、ヨウ素系を用いて実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A)空間分割第一原理計算手法を利用したconstraint schemeの開発について、まずマルチQM/MM手法の開発については順調に進んでいる。酸化還元電位、再配置自由エネルギー、電子結合行列のDFTハイブリッド汎関数レベルの計算が可能になり、実践的なドナー・アクセプター間の電子移動の計算に適用可能な所まできた。一方FMO-LCMO法については高精度化をようやく終了した所で、今後ドナー・アクセプター領域の記述の部分に取り組むことになる。 (B)閉空間電子数に対するconstraint schemeを用いたDFT分子動力学解析についても順調に進んでいる。まだ移動する電子波動関数の広がりと計算手法の破綻条件については解析中であるが、表面・固液界面系への適用可能な所まで到達してきたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(A)空間分割第一原理計算手法を利用した電子移動反応の計算手法として、マルチQM/MM計算手法の開発を引き続き進めて行く。2つのQM領域間の電子移動過程に伴う自由エネルギー変化(酸化還元電位)、再配置自由エネルギーのサンプリング解析を行うだけでなく、ドナーとアクセプターの間のフロンティア軌道を利用した電子結合行列計算の実証も行い、最終的に電子移動反応レートの見積もりを実行する。今年度もモデル系として水中の遷移金属イオン間の酸化還元電位を扱うとともに、様々な電池で用いられている有機溶媒における電子移動反応への適用も行う予定である。 (B)閉空間電子数に対するconstraint schemeを用いたDFT分子動力学(MD)解析については、表面・固液界面系への適用を引き続き進めて行く。具体的には光触媒反応系であるTiO2/H2O界面に加えて、ダイヤモンド電極界面上の触媒反応、リチウムイオン電池負極/有機溶媒電解質界面における電子移動とそれに伴う自由ネルギーの実証計算にも適用して行く予定である。また京コンピューターを用いた大規模計算への展開も行って行く。
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