研究課題/領域番号 |
23340094
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鳴海 康雄 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50360615)
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研究分担者 |
中村 哲也 (財)高輝度光科学研究センター, 利用促進研究部門, 主幹研究員 (70311355)
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キーワード | パルス超強磁場 / 軟X線磁気円二色性 / 電気磁気効果 / マルチフェロイック物質 |
研究概要 |
本研究では、世界に例のない40Tパルス超強磁場・軟X線磁気円二色性(XMCD)測定を駆使して、マルチフェロイック物質で見られる電気と磁気の相関現象「電気磁気効果」の微視的機構を解明することを目的としている。初年度は技術的開発として、フィルムコンデンサの増設など40Tロングパルス磁場発生を実現するための電源増強を行った。また新規にロングパルスマグネット用と40Tマグネット用の2台の軟X線MCD実験用チャンバーを製作し、40Tマグネットはインストール済みで、現在ロングパルスマグネットの製作を進めている段階である。これらに加えてモジュールタイプの電流アンプを導入するなど、測定感度を上げるためのR&Dも平行して進めている。物性実験への応用例としては、2種類のマルチフェロイック物質CuFeO_2とLuFe_2O_4に関するパルス強磁場軟X線MCD実験を実施した。CuFeO_2に関しては、これまでに報告例の無いMCD信号の観測に成功し、最大25TまでのXASおよびXMCDスペクトルの測定からスピン、軌道モーメントの評価を行った。ただし、磁場誘起強誘電相を観測するのに必要な温度条件が不十分で合ったことが補足実験などから明らかとなったため、現在より低温での実験を確実に履行できるよう、クライオスタットの改良を進めている。この成果に関しては、2012年3月に開催された日本物理学会にて報告した。LuFe204に関しては、新たに高温測定用クライオスタットを開発して、磁気転移温度と電荷秩序温度を含む測定温度220K~380K、最大30Tまでの磁場環境でXASおよびXMCDの測定を行って、電気・磁気相転移に伴うFe^<2+>とFe^<3+>の磁気偏極状態の変化を詳細に調べた。その結果、Fe^<2+>とFe^<3+>が反平行に配列している低温でのフェリ磁性秩序状態が、磁気転移温度よりも高温領域でも短距離の秩序として維持されていることが解った。また、Fe^<2+>とFe^<3+>の間の反強磁性相関は電荷秩序温度330Kを境に消失し、これより高温では両価数の磁気モーメントも磁場配向することが解った。今後、スペクトルの詳細な解析を進めて各原子価に対する定量的な磁気偏極度の評価を行い、電気分極の発現機構との関連性を明らかにしていきたいと考えている。この成果も2012年3月に開催された日本物理学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
公私にわたって震災の影響で、前期は既存の装置を使った実験は辛うじてこなせたものの、当該研究で計画していた装置開発に本格的に着手できたのは後期に入ってからとなった。従って、技術開発の観点からはやや遅れがあると判断せざるを得ない。ただし、既存の強磁場MCD装置に新規開発した高温クライオスタットを組み合わせて行ったLuFe_2O_4の強磁場XMCD実験では、電荷秩序と磁気相互作用の関連性を裏付ける新規な結果を得ることができ、物性研究の立場からは多くの有益な成果が得られたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マグネットのロングパルス化以外の装置開発は概ね完了しているので、4月の放射光実験から順次装置の導入を図り、これまで行ってきたLuFe_2O_4やCuFeO_2に関する応用研究をさらに進めて行く。電源の調整を進めながら、前期の後半に最大40Tでの実験を実施する。平行してロングパルスマグネットとこれを搭載したチャンバーの開発も行う。後半からはTbMnO_3など他のマルチフェロイック物質へも応用範囲を広げて研究を進める。これまでに得られた成果をまとめて論文誌への投稿を進め、また夏期に開催される幾つかの国際会議でも研究成果の発表を行う。
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