研究課題/領域番号 |
23340094
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鳴海 康雄 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50360615)
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研究分担者 |
中村 哲也 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (70311355)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | パルス超強磁場 / 放射光 / 軟X線分光 / 磁気円二色性 / 電気磁気効果 / マルチフェロイック物質 |
研究概要 |
40T超強磁場軟X線磁気円二色性測定の実現とそれを利用した電気磁気効果の微視的解明を研究目的として、技術目標として軟X線磁気円二色性測定のための40T磁場発生の実現、その応用として複数のマルチフェロイック物質に関する強磁場軟X線磁気円二色性測定を行った。具体的な技術開発に関する成果としては、40T放電時の高電圧・大電流に耐えられるように、電源装置において放電スイッチユニットの増強を行い、39.8Tの磁場発生を実現した。また電源ユニットのコンデンサ部分を並列と直列に切換られるようにすることで、高磁場発生に特化したモードと長時間パルスが得られるモード選択を可能にした。試料周辺の改良として、一体型のサファイア試料ホルダーを製作して試料環境の低温化を実現し、さらにRuスパッタリング装置の導入で、絶縁性の高いマルチフェロイック物質においても金属試料と同様に全電子収量法による軟X線吸収測定が可能な技術を確立した。物質への応用としては、3つのマルチフェロイック物質、LuFe2O4、CuFeO2、TbMnO3の軟X線磁気円二色性測定を行った。LuFe2O4では、フェリ磁性秩序相の中に磁場反転に対する履歴が異なる特異の磁気相が存在することを見いだした。CuFeO2では、磁場誘起強誘電性を有する第一磁場誘起相におけるFe-L吸収端においてMCD信号を観測し、エネルギースペクトルの解析から形式価数Fe3+の電子状態ではあり得ない軌道磁気モーメントが存在することを示した。合わせて常磁性領域におけるCu-L吸収端においてもMCD信号を観測した。2種類の磁性イオンを含んだマルチフェロイック物質TbMnO3では、誘電分極の向きが変わる磁場において、Tb-M吸収端におけるMCD信号が非線形に変化することを見いだした。このことはMnの磁性に加えてTbの磁性も分極発現に係わっていることを示す結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主たる開発目標である40Tの磁場発生はほぼ達成し、実際の測定に必要な技術開発も順調に進んでいる。装置開発に関する「“X-ray Spectroscopies in Pulsed High Magnetic Fields: New Frontier with Flying Magnets and Rolling Capacitor Banks”Y. Narumi et al., Synchrotron Radiation News, Vol.25 P.12-17 (2012)」が掲載号の表紙に採用されるなど、当該研究への関心度の高さが伺える。まだ低い磁場領域ではあるがすでにいくつかの応用研究も進んでおり、今後様々な系への研究展開も期待できる。マルチフェロイック物質に関しては、軟X線磁気円二色性の特色を生かした、価数選択性(LLuFe2O4の電荷秩序状態にあるFe2+とFe3+の磁性の価数選択MCD測定)、スピンと軌道の分離(総和則を利用したCuFeO2のFe3+のスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントの定量的評価)、元素選択性(複合元素ペロブスカイト化合物TbMnO3の希土類元素Tbと遷移金属元素Mnの元素選択MCD測定)に関する成果も得られており、論文化を進めている所である。
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今後の研究の推進方策 |
「技術開発に関して」 まだ未導入の長時間パルス専用のパルスマグネットを開発する。長時間パルスを実用的に運用するためには、測定効率に大きく影響するコイルの冷却時間を如何にして短くするかが重要となる。そのために、従来の磁場発生に用いている2mm×3mmの平角線を用いた多層型マグネットに加えて、小さな容量で大きなインダクタンスが得られる1mm×1.5mmの平角線を用いたコイルも開発して、磁場特性を検証する。開発したコイルとすでに完成している電源の増強と合わせて従来の2倍以上の長時間化を達成する。これにより軟X線磁気円二色性(MCD)計測の高感度化を達成する。 「物性研究への応用」 磁性イオンとして希土類のTbと遷移金属のMnを含んだマルチフェロイック物質TbMnO3の研究を進める。TbMnO3は分極ベクトルの入れ替わりが起こる10T近傍の相転移に加えて、30Tを越える磁場領域でも磁気転移が起こり分極が減少に転じることが知られている。すでに行った低磁場領域の実験ではMn-L吸収端のMCD信号は非常に小さい事がわかっているが、この高磁場域ではMnの磁気構造が大きく変化し、それに合わせてMnのMCD信号にも大きな変化が生じると期待できる。そこで新しく開発した40T-MCD装置を用いてMnのMCD測定を行って、電気分極の磁場依存性に対するMnの影響を直接検証する。 さらに、これまでの技術開発で達成した強磁場軟X線磁気円二色性測定における、磁場向上、測定の高感度化、低温環境の実現、絶縁体試料への対応、を生かして、量子磁性体のMCD測定を行い、スピンの量子短縮やVBS状態など量子効果によって発現する様々な特異な現象を、微視的な観点から解明する。
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