研究課題/領域番号 |
23340095
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
有田 亮太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80332592)
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研究分担者 |
中村 和磨 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60525236)
池田 浩章 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90311737)
是常 隆 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (90391953)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 計算物理 / 超伝導材料•素子 / 物性理論 / 分子性固体 |
研究概要 |
モデル計算と密度汎関数理論を融合する試みについては、vertex補正を2体の相関関数の総和則を満たす様に自己無撞着に決定する2体自己無撞着法の開発に取り組んだ。特にこれまで定式化がなされていなかった多軌道系への拡張をおこない、鉄系超伝導体などに適用した。また、これまで第一原理的なモデル導出がおこなわれてこなかった重い電子系についても系統的なab initio downfoldingの計算が行われ、特に多体相互作用の大きさについて、物質依存性が明らかにされた。 超伝導密度汎関数理論を使った研究については、専用の大容量メモリーの計算機を導入し(平成23年度予算からの繰り越し)、フラーレン超伝導体への適用を行った。フラーレン超伝導体については、その相図の中で、状態密度の増加が転移温度の増大につながっている領域があり、この領域について、Migdal Eliashberg理論が適用できるかどうかが長く未解決の問題となっていた。超伝導密度汎関数理論は遅延効果を非経験的に考慮することができるので、この問題に決着がつけられることが期待されていたが計算規模の観点からこれまで計算がなされてこなかった。我々の計算によって、フラーレン系においては、フォノンによる質量の繰り込みが電子格子相互作用の見積もりからおおまかに見積もられる値よりもかなり小さいこと、また、ギャップ関数の有限周波数における符号反転による利得もかなり稼げることがわかった。しかしながら、最終的に見積もられる転移温度の大きさは実験と比べると半分程度のものであり、この系の高温超伝導機構を考える上では、標準的なMigdal Eliashberg理論を越えるものが必要であることがわかった。さらに、ドープされた半導体に対する超伝導密度汎関数理論の方法論開発も行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
専用の計算機を導入したあと、フラーレン系の超伝導密度汎関数理論による解析が予定通り進んだ。超伝導密度汎関数理論による計算は、これまでユニットセルに7つの原子を含むものが(計算コストの観点からいって)最も大きな系であったが、今回の計算により、はじめて63個の原子を含む系の計算が実行された。この系の超伝導の発現機構については、フォノンのエネルギースケールが大きいことからMigdal Eliashberg理論の妥当性が重要な課題となっていた。この問題については、遅延効果を経験的パラメータを導入することなく定量評価することが鍵となるが、超伝導密度汎関数理論はまさにこの目的に合致するアプローチである。我々の計算結果は、Migdal Eliashberg理論で説明できる領域は相図の中でもきわめて限定された、転移温度が低い領域のみであることを明らかにした。このことは、この系の高温超伝導の理解には、非従来型機構の可能性を十分に考える必要性を示唆するもので非常に興味深い。 密度汎関数理論とモデル計算を融合する試みについては、重い電子系などこれまで第一原理的モデル導出がなされていなかった系にたいして初めて系統的な計算がおこなわれた。また、電子格子相互作用が強い系について、電子間相互作用だけでなく、電子格子相互作用の大きさの第一原理的評価法の開発も行われた。これは、電子格子相互作用を見積もる標準的な方法である密度汎関数摂動論(density functional perturbation theory)において、低エネルギー領域の電子の遮蔽効果に制限を加えることで実現される。最初の適用例として、鉄系超伝導体を選び、この系の電子格子相互作用が強い軌道ゆらぎ、あるいは軌道揺らぎによって媒介される超伝導が実現するかについて議論を行った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、超伝導密度汎関数理論については、層状窒化物超伝導体などのドープされた半導体に対する方法論開発が終了した。ドープされた半導体ではプラズモンのエネルギースケールが小さくなるので、この効果が遮蔽されたクーロン相互作用の動的構造に大きな影響を与える。従来の超伝導密度汎関数理論では、遮蔽されたクーロン相互作用については静的な近似が適用されてきたが、動的な構造を取り込む様に理論を拡張してリチウムなどの電子状態が単純な系について適用を行っている。また、ドープされた半導体については、フェルミ面の上下で電子状態に著しい電子格子比対称性が現れる。これまでに、これらの効果を考慮した新しい交換相関汎関数の開発にとり組んできたが、今後、この適用を層状窒化物超伝導体やMoS2などの具体的な系に対して積極的に適用してゆくことを考えている。 格子の自由度を含む低エネルギー模型を第一原理的に導出する方法論については、昨年度までの開発をもとにして、フラーレン系などへの適用を進めてゆく。我々の方法論に従えば、超伝導だけでなく、例えばフォノンの分散が温度によってどのように変化していくべきか、電子との結合によってどのように変化していくか、などという問題が非経験的に調べられることとなる。 重い電子系については、低エネルギー有効模型の系統的導出にめどがついたので、得られた模型の解析を行う。特に、ギャップ関数の対称性を完全に微視的な計算を行うことによって明らかにすることを目指す。
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