研究課題/領域番号 |
23340096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳永 将史 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50300885)
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キーワード | 物性実験 / 強磁場 / 磁気熱量効果 / 磁性形状記憶合金 |
研究概要 |
平成23年度はパルス磁場中で瞬間的に試料温度を測定するための抵抗温度計の開発と、断熱条件下で磁気熱量効果を測定するためのプローブ作りを中心として行った。抵抗温度計は通常、AuGe合金膜を試料上に直接真空蒸着することで作製している。この系ではAuとGeの比率を制御する事で抵抗率の温存性を幅広く制御可能であり、また非磁性金属であるため磁気抵抗効果が弱いという特徴を持つ。実際の膜で抵抗の温度依存性を希望通りに実現するために製膜の条件出しを行い、ある程度目的を達成できるところまでたどり着いた。プローブに関しては、温度の制御性に難があったプロトタイプを改良し、約5Kから室温付近までの範囲で制御性の向上したプローブで実験を行えるようにした。 研究対象として第一に、負の磁気熱量効果を示す事で知られるホイスラー型磁性形状記憶合金の磁気熱量効果を測定した。この試料では構造相転移に伴う格子変形が非常に大きいという問題があり、試料上に成長した抵抗温度計を破壊してしまうという問題がある。そこで温度計を成長したサファイア薄板を試料上に貼付ける方法で解決を試みたが、温度計の応答速度に問題があり、パルス磁場下の急峻な磁場変化には適用できていない。物性研究所国際超強磁場科学研究施設所有のフライホイール電源を使った長時間パルス磁場下では、このセットアップでも実験を成功させられる可能性がある。しかし東日本大震災後の電力事情などの制約により長時間パルスマグネットを動かす事ができないため、この年度では実験ができなかった。そこで測定対象を変えた実験を現在いくつか平行して進行している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測温技術の開発については、温度計測用のAuGe合金薄膜の形成がおおむね順調に進展しており、室温から低温域まで幅広い温度で磁気熱量効果の測定に必要な温度計を準備できる状態になりつつある。また測定用プローブについても温度制御性の良いものが完成しつつある。しかし磁性形状記憶合金への応用という点に関しては、期待した結果を得るに至っていない。その理由は、この物質が示す構造相転移による格子の変形が非常に大きく、試料表面に形成した温度計を破壊してしまう事にある。試料上に温度計を直接成長する代わりに、サファイア薄板上に作製した温度計を試料に貼付ける方法も試しているが、現時点で問題の解決には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
温度計作製条件の最適化を進め、パルス磁場下における瞬間的な試料温度の測定精度をさらに向上させる。昨年度の研究を通して、磁気熱量効果測定結果の解析から磁場中比熱を導出できる見通しが得られた。そこで標準的な物質に対して磁気熱量効果の測定を行い、この解析で得られる磁場中比熱の精度について検証を行う。この解析には磁気熱量効果測定の精度向上が必須であるため、交流磁気抵抗測定によって精度の向上を図る。 磁性形状記憶合金の実験における困難については、サファイア薄板を用いる手法で条件を変えつつ解決を目指す。 一方で初期計画に記した通り、研究の停滞を防ぐために別の対象に対する実験を平行して行う。具体的な対象としては、鉄系超伝導体母物質の磁場誘起相転移を研究する。我々は、この物質が強磁場下で相転移を起こす事を示唆する実験結果を最近見いだしたが、相転移の直接的な証拠となる熱力学量の変化を検出できていない。本課題で開発中の磁気熱量効果測定系を用いて、世界初となるデータの取得を目指す。
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