研究課題/領域番号 |
23340096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳永 将史 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50300885)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 強磁場 / 相転移 / 磁気熱量効果 / 比熱 |
研究概要 |
これまで我々は50T以上の磁場発生が可能なパルス強磁場を用いて、様々な磁性体、超伝導体などで起こる相転移現象を研究して来た。過去の研究では、相転移の熱力学的振る舞いを直接調べる手法としてはほぼ磁化測定しか手段がなく、磁性体を除く多くの系では相転移の詳細な研究が困難であった。 このような背景の中で本研究では、高速応答をする薄膜抵抗温度計を試料上に作製する方法を用いて、パルス強磁場下での磁気熱量効果測定手法を目指してきた。初年度に取り組んだ金とゲルマニウムの合金系薄膜を用いた温度計測によってガドリニウムおよび磁性ガーネットにおける磁気熱量効果を、最大55Tまでのパルス強磁場下で測定し、定量的にも弱磁場領域では文献値と一致する結果を得た。特にガーネットに対する実験では、強磁場領域までの磁気熱量効果測定が、低温領域での残留エントロピーを議論する上で有効な測定手法となりうることを示し、今後様々な系への応用が可能である事を明らかにした。 この方法を応用してホイスラー型構造を持つ磁性形状記憶合金における巨大な負の磁気熱量効果を測定した。この物質が示す顕著な構造相転移の際に温度計が破損してしまった。そこで厚さ5~30ミクロンのサファイア板上に抵抗温度計を作製し、その板を試料に貼付ける方法で熱量測定を達成した。本研究ではこの物質における磁気熱量効果の全貌を世界で初めて直接的に観測することに成功し、その結果この特異な現象におけるスピン系、格子系および電子系の寄与を個別に評価する事に成功した。 これらの高速熱量測定は50Tを越えるパルス強磁場下における様々な相転移の研究にこれまでにない、新たな可能性を与えており、今後様々な物質系での応用が期待されている。 また本研究を通じて、測温の精度向上のためにパルス磁場下における磁気抵抗測定の精度向上が必須の課題となった。その成果は多くの関連研究にも活用されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁気熱量効果の標準的物質であるガドリニウムや磁性ガーネットに対する磁気熱量効果測定では、試料上に直接抵抗温度計薄膜を作製するという計画通りの手法で、高速温度計測が実現できた。一方で巨大な負の磁気熱量効果を示すホイスラー合金に対する実験では、磁場誘起相転移に伴う構造変化が非常に大きいため、試料上に形成した温度計が破損するという問題が生じた。そのため厚さ5~30ミクロンのサファイア板上に抵抗温度計薄膜を作製し、それを試料に貼付けるという方法に切り替えて条件出しを行ったため予想より時間を必要とした部分はあったが、結果として、このホイスラー合金における磁気熱量効果の起源解明の重要な鍵となる実験成果を挙げられたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進目標としては、今回構築した手法が単に開発したという段階にとどまらず、今後様々な物理の解明に使われて行く事が非常に重要である。そこで効率よく実験をすすめるには、毎回試料上に抵抗温度計を作製した後でその磁場・温度特性を較正した後に実験をするのではなく、一度較正した温度計に取り付ける試料を付け替える形での実験を望んでいる。そのためホイスラー合金の測定で行ったように非常に薄いサファイア板上に温度計薄膜を作製する方法で、今後のさらなる発展を目指したい。 また本研究を応用したパルス強磁場下での比熱測定や、極低温領域での時間分解熱量測定などが、物性測定の新たな道を開きつつある。本研究の成果をそれらの進展に役立てたい。
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