研究概要 |
2008年初頭に我が国で発見された鉄系超伝導体は、銅酸化物に続く高い超伝導転移温度を示す物質群であり、その超伝導機構の解明は急務となっている。超伝導の起源としては大きく分けて磁気揺らぎ、および起動揺らぎが考えられるが、本研究の目的は中性子非弾性散乱を用いて鉄系超伝導体の磁気励起およびフォノン励起を詳細に観測する事で、鉄系超伝導体の超伝導機構の解明を目指している。この目的を達成するため、H.23年度は、(i)Ba(Fe,Co)2As2の磁気揺動の面内異方性の詳細測定、(i)DBaFe2(As,P)2の磁気散乱測定、(iii)DBaFe2(As,P)2のX線構造解析、(iv)BaFe2Se3の磁気構造解析、(v)(Li,Na)Fe(As,P)系の単結晶育成等を総合的に行った。 (i)に関しては、常磁性状態での磁気揺動の面内異方性のCoドーピング依存性を測定する事から、最適超伝導組成で面内異方性が最も大きい事を示した。これはバンドキャラクターを反映した磁気励起スペクトル計算とコンシステントであり、常磁性相で対称性を破るような相関を特に必要としない事を意味している。(ii)に関してはPドープに伴う磁気モーメントの減少を定量的に明らかにした。(iii)においては、構造相転移並びに磁気相転移の直上で何らかの新しい秩序化を発見したが、これは磁気秩序相での軌道秩序とは異なる軌道秩序を示唆するものである。(iv)においては、BaFe2Se3の磁気構造を高分解能粉末中性子回折を行う事により決定した。この結果、この系では近年話題になっている245系と同様の4スピン強磁性構造からなるブロック的磁気構造が安定化されている事が分かった。磁気相転移点での結晶構造の詳細な解析は、磁気相転移に伴いFeが僅かに動く事もとらえており、原子構造と磁性の強い関連がここでも示唆される。(v)ではLiFeAsの単結晶育成に成功した上に、LiFeP系の育成にも着手している。なお今後の研究に必要な縦型ブリッジマン炉の設計および製作も済ませた。
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