研究概要 |
本研究では,Yb系強相関化合物を中心に比熱,ゼーベック係数,ネルンスト係数,熱伝導率などの物理量を極低温,磁場,圧力といった極限環境を組み合わせて多角的に調べることで,量子相転移およびその近傍にみられる異常な電子状態を理解することを目的としている.平成23年度は,(1)緩和法と交流法を組み合わせた極低温比熱測定システムの構築,(2)極低温熱電係数測定システムの高精度化,および(3)量子臨界点近傍における輸送係数の測定の3つの点を中心に研究を進めた.(1)については,交流法比熱測定システムを構築し,40mKまでの極低温で比熱を測定できることを確認した.また,その結果から温度計の磁場による影響,熱源の安定性,外来ノイズの影響等,想定範囲内ではあるがいくつか改善点が確認された.それらをふまえ,より高精度な実験を実現するために現在システムの改良を行っている.(2)については,ピコボルトメータを採用するとともにそれにあわせて配線シールド等,システム全体の構成・セッティングを見直すことで高精度化を行った.これにより,従来に比べ4-5倍の精度が得られるようになった.そこでこのシステムを用い,(3)に関する実験としてYbCo_2Zn_<20>の熱電係数および熱伝導率測定を行った.その結果,YbCo_2Zn_<20>のゼーベック係数が50mKの極低温で,銅の10000倍にも達することが明らかになった.この結果は,この物質の輸送係数に寄与する電子の有効質量が増強されていることを示している.これによりこの物質で報告されている巨大な低温電子比熱が,局在電子によるものではなく,重い遍歴電子に由来していることを明らかにすることができた.さらに,磁場中でメタ磁性転移に伴い,各輸送係数が劇的に変化すること,メタ磁性転移点近傍で非フェルミ液体的挙動を示すことも明らかになった.特にネルンスト係数の結果は,(2)の高精度化により初めて得られた結果である.今後,これらの結果を総合的に評価することによりYbCo_2Zn_<20>における電子状態の理解を進めることができると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,計画していた3つの点に関して,ほぼ当初の計画通りの結果が得られている.特にYbCo_2Zn_<20>の結果では,非フェルミ液体的挙動をはじめとし,メタ磁性転移,磁場誘起秩序に由来する特異な輸送係数の振る舞いなど,期待以上の結果が得られており,順調に計画が進んでいると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度ではYbCo_2Zn_<20>において,非フェルミ液体的挙動だけでなく,メタ磁性転移,磁場誘起秩序の特異な電子状態に由来する興味深い結果を得ることができた,これらの結果は,この物質群特有の構造と密接に関わっている可能性が考えられる.そこでこれらの結果をふまえ,今後,計画にある他のYb化合物の測定だけでなく,PrIr_2Zn_<20>などの当初の計画にはなかった他の関連物質についても同様の実験を行い,YbCo_2Zn_<20>の結果と比較することでYbCo_2Zn_<20>の電子状態のより深い理解を目指す.また,極低温比熱測定システムの構築については,温度計の磁場による影響,熱源の安定性,外来ノイズの影響などの軽微な問題点が確認されたので,それらをふまえ温度計の磁場中精密校正,シールドの強化など,システムのさらなる改良を行う.
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