研究課題/領域番号 |
23340099
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井澤 公一 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (90302637)
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研究分担者 |
町田 洋 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40514740)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 物性実験 / 低温物性 / 量子臨界点 / 非フェルミ液体 / Yb化合物 / メタ磁性 |
研究概要 |
本研究では,Yb系強相関化合物を中心に,熱輸送係数,熱電係数などの輸送係数および比熱を多重極限下で多角的,系統的に調べることにより,それらの物質における量子相転移およびその近傍に見られる異常な電子状態を理解することを目的としている.平成25年度は,YbAlB4の量子臨界点近傍でのヴィーデマンフランツ則の検証を行った.その結果,YbRh2Si2と同様,YbAlB4の量子臨界点近傍においてもヴィーデマンフランツ則が成り立っていることが明らかになった.これまで量子臨界点近傍における異常金属状態としてヴィーデマンフランツ則が破れた電子状態が理論的にいくつか提案され,その奇抜さゆえ注目を集めていたが,本成果はそのような可能性を支持しない.このことは今後量子臨界点近傍の異常金属状態を考える上での重要な指針となる. 本研究で対象としているYb化合物は1つの4fホールをもつのに対し,Ce化合物は1つの4f電子をもつため,しばしばその対応関係から両者を比較する事でそれらの電子状態の理解がなされてきた.本研究対象の1つであるYb化合物でのメタ磁性を理解するため,参照物質として磁場中で2つのメタ磁性転移を示すCe(Ru0.92Rh0.08)2Si2の熱電係数を調べた.その結果,比熱で観測される互いに似た2つのメタ磁性異常は,ゼーベック係数では全く逆の符号をもつ異常として現れることがわかった.このことは,それぞれのメタ磁性転移の起源が全く異なる可能性が高いことを示しており,Yb系でのメタ磁性転移の理解のための重要な情報を与えている. 一方,YbCo2Zn20の関連物質であるPrIr2Zn20,PrTi2Al20,PrV2Al20,RrTa2Al20の熱電係数を系統的に調べ,Al系とZn系では伝導電子とf電子の混成の大きさが異なることで電子基底状態の違いが見られている可能性が明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は,Yb化合物の量子臨界点近傍の電子状態について,上述の通りYbRh2Si2だけでなくYbAlB4においてもヴィーデマンフランツ則を確認し,これまで提案されてきた可能性に一定の制約を与えることができた.このことにより量子臨界点近傍における異常金属状態の理解を進めることができたと考えている.同時に関連物質についても熱電係数,輸送係数,比熱などの実験を系統的に進めることができた.その結果,関連物質における電子状態の理解も進めることができ,その結果に基づいた考察によりYb化合物の電子状態の理解にも重要な情報が得られはじめている.一方,これらの実験を優先的に行ったため,予定していたYbBiPtの実験の優先度を少し下げることになった.. 上述のように,これまでの実験結果を受けて対象物質に多少の修正を行ってはいるが,期待した結果が得られている.そして引き続き計画に沿って両側面から実験を進めている状況であり,順調に計画が進行していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成26年度は,Yb化合物としてYbBiPtにおける異常金属状態を詳細に調べてゆく.またそれと同時に,関連物質の中でもPrRh2Zn20やPrV2Al20の電子状態,特に非フェルミ液体状態についても詳細を調べる.これらの関連物質は,奇数個のf電子をもつYbとは異なり,偶数個のf電子をもつ.これまでの結果をふまえると,このf電子数の違いと各物質で見られる非フェルミ液体状態の関係をさらに明らかにすることで,異常金属状態の理解のための重要な情報が得られると期待される.そしてこれまで得られた結果を合わせ,Yb化合物に見られる異常金属状態に関する統一的理解につなげたい.
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