研究課題/領域番号 |
23340101
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 直樹 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 准教授 (60272530)
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研究分担者 |
上床 美也 東京大学, 物性研究所, 准教授 (40213524)
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キーワード | 高温超伝導 / 核磁気共鳴 / 高圧技術 / 磁性 / 相転移 / 鉄砒素系化合物 / スピン密度波 |
研究概要 |
鉄砒素系超伝導体では、相図上反強磁性(スピン密度波)相と超伝導相が隣接し、交差する領域もある。銅酸化物との類似性からスピン揺らぎを介した超伝導発現機構がしばしば指摘されるが、鉄砒素系ではスピン揺らぎではなく軌道が電子対形成に大きな役割を果たしているという理論もあり、現在高温超伝導の発現機構にかかわる争点となっている。双方の理論では、反強磁性(スピン密度波)相と超伝導相の境界領域で現れるであろう現象に違いがある。スピン揺らぎが関与する理論では、相境界でスピンと超伝導双方の秩序変数が両立する、即ち両方の状態が均一に共存しうると予想されるが、軌道が関与する理論では、反強磁性状態と超伝導状態が共存することはないと考えられている。LaFeAsO1-xFxの過剰電子ドープ領域では、スピン揺らぎが弱いにもかかわらず高い超伝導転移温度を保持しているため、軌道揺らぎを介在した超伝導の実現可能性がある。また、Ca(Fe1-xCox)AsFでは、反強磁性相と超伝導相の重なる電子ドープ領域が広いため、反強磁性スピン秩序を伴ったまま超伝導が実現しやすい。以上の二件について核磁気共鳴、核四重極共鳴法を用いて探索することが本研究の目的である。まず、Ca(Fe1-xCox)AsFにおいては、共存領域においてCo核の磁気共鳴粉末スペクトルの形状が矩形型ではなく、カスプ型になることから、非整合スピン密度波が発現していること、またその状態を維持したまま超伝導が実現していることを見出した。このことは、反強磁性と超伝導秩序変数が共存することを意味し、この物質ではスピン揺らぎによる超伝導発現機構を支持している。一方、LaFeAsO1-xFxにおいては、相境界の電子ドープ領域において、常圧では反強磁性と常磁性状態、3万気圧下では反強磁性と超伝導状態が相分離して現れる。このことは電子相図において反強磁性相と超伝導相は本来分離しており、圧力印加により見かけ上重なり合うことで説明可能である。この現象は、軌道揺らぎの寄与を考慮した理論を支持するものである。現状では、すべての物質について一方の理論で説明可能な状況ではない。ただ、相図上で反強磁性相と超伝導相の重なりが大きい物質ほど、スピン揺らぎを介した超伝導の特徴が顕著になってくるようである。このことが事実であるならば、LaFeAsO1-xFxにおける過剰ドープ域での核磁気共鳴は、スピン揺らぎがきわめて弱いと考えられるため、軌道の寄与を調べる上で今後重要な研究項目になると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した通りのタイムスケジュールで結果がでており、実際に学術誌への投稿、出版が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、調書に記載した計画を遂行する予定である。最近明らかになったこととして、LaFeAsO1-xHはLaFeAsO1-xFxよりも過剰の電子をドープすることができるので、LaFeAsO1-xHを研究対象に含めて核磁気共鳴を行う予定でいる。
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