研究概要 |
LaFeAsO1-xFxの電子相図おいて、超伝導相(x=0.04-0.15)は、反強磁性相(x=0-0.05)から相当離れた、スピン揺らぎの発達していない領域においても発現する。この事実を鑑み、軌道揺らぎによる超伝導発現の可能性を探索することが本研究の目的である。当初は、LaFeAsO1-xFxのみ対象とする予定であったが、計画の途中で画期的な物質であるLaFeAsO1-xHxが発見された。これは、LaFeAsO1-xFxと同じ構造を持つ物質であるが、キャリアである電子をLaFeAsO1-xFxの3倍以上ドープすることができる。しかも超伝導相は、x=0.04-0.5までの広い領域にわたって現れる。本研究の目的からすれば、相図上で磁気秩序相(x=0-0.05)から遥かに離れた過剰電子ドープ領域(x>0.4)における超伝導の起源を探索することになる。当初の予想に反して、過剰ドープ領域では、ドープ量が増えるとスピン揺らぎは逆に大きくなった。それに対応して、水素核スペクトルの低温での広がりから磁気秩序が現れた。この発見は、過去の高温超伝導体研究の歴史において、初めて発見された新奇現象であり、N. Fujiwara, et al., Phys. Rev. Lett. 111(2013)097002に掲載されている。過剰ドープ領域での超伝導発現機構は、一見、スピン揺らぎに起因するような印象を与えるが、実際には過剰ドープ領域において、鉄ヒ素面内の電子軌道の異方性も著しく発達しており、軌道秩序の可能性ないし、複数の電子軌道占有の重みに偏りがある可能性が高い。今後行う高圧下核磁気共鳴では、圧力印加とともに最適の超伝導転移点Tcは増大することが現在わかっている一方、反強磁性転移点TNは減少することが予想されるので、圧力印加によって超伝導の起源解明に迫れるものと思われる。
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