第一原理電子状態計算が標準的に用いる局所密度近似はモット転移等,相互作用の大きさが中間的な領域で起こる現象に対して無力である 。パラメータ「ハバードU」を用いない第一原理動的平均場近似(DMFT)を開発することにより、ハバードUにたよらずモット転移近傍を扱う第一原理計算の枠組みを構築し、遷移金属カルコゲナイド等の絶対零度における金属相と絶縁体相の非経験的理論を展開することが目的である。 前年度までに展開したハバードUを用いた計算コードを参照しつつ、自己エネルギーにクーロン積分を用いた,ハバードUを用いない第一原理DMFT計算機コードのプロトタイプを開発した。最低次の既約自己エネルギーを求めるための数値計算における問題点を解決して、精度の良い計算をすすめるためのアルゴリズムを開発した。グリーン関数法による電子状態計算コードに上記アルゴリズムを実装して、強磁性Fe、Co、Niの電子状態と磁性の計算を行うことによって、クーロン相互作用のシングルサイトにおける効果を吟味した。ハートリー・フォックレベルで最適化有効ポテンシャル(OEP)の方法を用いた厳密交換項の方法(OEP-EXX)との比較を行ったところ,OEP-EXXより予想以上に大きな交換分裂が現れることが分かり, OEP法とは定性的に異なった結果を与える結果となった。前年度までにOEP法でモット転移近傍以外は良く記述出来ることを確認したが,今回の結果はDMFTを用いた計算ではある程度高次の効果を繰り込んでいく必要性を示唆している。 現在のところ,RPAレベルでの遮蔽効果を取り入れることができていないため過大な交換分裂が起こる等の不都合を生じているが,第一段階としてパラメータとしてのハバードUを用いず,クーロン積分を厳密に計算しながらDMFTを実行するための第一の関門となるステップを完成させることができた。
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