研究課題
本研究では、芳香族多環縮合炭化水素ピセンへの化学的なキャリアドーピングによって実現した超伝導体に対象を絞って、その超伝導発現機構の解明を目指している。本年度はカリウムをドープしたピセンを対象とした。固相反応で得られた超伝導相のX線回折では、複数の結晶相が混在していることが明らかであった。未反応のピセンの他に、c軸が拡張する結晶構造を持つ相と縮小する構造を持つ相が主な相として存在していた。超伝導相の結晶構造を明らかにするためには単相化が不可欠であると判断し、カリウムドープビセンの精密相制御を進めた。合成の手法は、アンモニアやモノメチルアミンなどの分子を用いた液相合成法であり、より効果的に金属原子をインターカーレーションすることができる。モノメチルアミンを用いた低温合成法では、精密な結晶相の制御が可能であることを見出し、単相試料を得ることに成功した。また、この方法を用いることでKHなどの不純物相を制御することも可能である。また、この低温溶液法が様々な芳香族炭化水素へのキャリアドーピングに有効であることも合わせて示すことができた。単相化した試料ではピセン層間が拡張しており、カリウム原子はピセン層内だけでなく層間へも挿入された構造であることを示唆する結果を得た。この結果から理論的に予測されている準安定構造の存在を明らかにした。また、この単相試料は高い超伝導転移のみ示す相であることがわかった。一方、この合成過程で生成される前駆体((CH3NH2)yKxpicene)の構造と物性を評価した。この前駆体では、モノメチルアミン分子はピセン層間に挿入されている。また、この前駆体の磁性はキュリーワイス則に従っており、ピセン分子上の電子相関の重要性を示唆する結果を得た。これはピセン超伝導体の発現機構を考える上で電子相関を取り入れる必要があることを示している。
2: おおむね順調に進展している
カリウムドープピセン超伝導体の2つの超伝導相の起源を明らかにするためには、単相試料で構造、物性評価が必要である。液相合成法による試料の単相化に成功しており、超伝導相が構造に敏感であることを示すことができた。
ピセン超伝導体の超伝導相が構造に敏感であるので、今後は液相合成法によって結晶構造の異なる相をエンリッチした試料を合成し、構造や基本物性の違いを明らかにする。現在、高いTcを持つ相のエンリッチには成功していおり、その結晶構造が明らかになりつつあるが、今後は低いTc相を単相化することで超伝導と結晶構造の相関が明らかになると考えられる。
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