研究課題
本研究では、芳香族多環縮合炭化水素ピセンへの化学的なキャリアドーピングによって実現した超伝導体に対象を絞って、その超伝導発現機構の解明を目指している。本年度はカリウムをドープしたピセンを対象とした。アンモニアやモノメチルアミンなどの溶媒を用いた液相合成法では、精密な結晶相の制御が可能である。また、溶媒を用いた合成では、高温のTc=18Kの超伝導相が選択的に合成できることが明らかになった。これを用いて結晶構造の格子定数について解析を行い、c軸が拡張する相であることがわかった。これは理論的に予想されるK1K2構造(1つのカリウムがピセン層間、2つがピセン層内へ挿入される構造)と一致している。以前の解析からc軸が縮小するK3構造(3つのカリウムがピセン層内へ挿入される構造)の存在がわかっている。従って、2つの異なるTcの起源はカリウム位置の異なる結晶構造である可能性を示唆している。一方、これらの異なる2つのTcを持つ試料を用いて、超伝導転移の圧力依存性を測定し、圧力変化が異なることを見出した。この結果も結晶構造の違いを反映している可能性がある。これらの結果は米国物理学会誌PRBへ報告し、editors’ suggestionに選ばれた。また、今まで超伝導の評価は磁化測定のみ行っていたが、本年度ペレットによる電気抵抗測定を行い、超伝導転移とゼロ抵抗の観測に成功した。これは超伝導機構を解明するうえで重要である。また、この電気抵抗の結果を米国物理学会誌PRBへ報告し、editors’ suggestionに選ばれた。
2: おおむね順調に進展している
カリウムドープピセン超伝導体の2つの超伝導相に対して構造の違いを明らかにしたことは、超伝導機構の解明に重要である。また、超伝導転移を磁化測定だけでなく、電気抵抗で評価できたことは、超伝導がバルクで生じていることを示唆する結果である。
ピセン超伝導体の超伝導相が構造に敏感であるので、今後は結晶構造の異なる相をエンリッチする手法を開発する必要がある。現在、この手法の開発が問題であるが、溶媒法の条件を詳細に検討することで対応できると考えている。これによって超伝導の結晶相の特定を行う。続いて、他のアルカリ金属をピセンへドーピングし、結晶構造や物性の評価を行い、ピセン超伝導相の機構解明を行う。
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