研究課題/領域番号 |
23340106
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
下條 冬樹 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (60253027)
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研究分担者 |
千葉 文野 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (20424195)
安仁屋 勝 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (30221724)
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キーワード | 液体 / 構造不規則系 / 高圧環境 / 共有結合 / ダイナミクス / 第一原理計算 / 分子動力学法 |
研究概要 |
理論的手法として、第一原理分動力学法を用いた計算機シミュレーションを採用し、平成23年度は以下の通り研究を遂行した。 1) Ge-Te系混合液体の部分構造と拡散機構の圧力依存性:まず、SiO2と同じIV-VI族化合物で融点の低いGe-Te系に注目し、シミュレーションを用いて動的性質を調べた。第一原理分子動力学計算を、4つの組成(Geの組成:0.15, 0.25, 1/3, 0.5)に対して0 GPaから10 GPaの圧力範囲で行った。常圧においては、Geの増加に伴い拡散係数は減少する。どの組成においてもGeの拡散がTeに比べて大きいが、一対一組成で差が顕著になる。加圧すると組成に依らず拡散は抑制される。興味深いことに、一対一組成においてGeとTeの拡散の差が更に大きくなり動的非対称性が見られた。Population解析から、Te-Te間の共有結合は比較的高圧まで維持されるのに対し、Geの周りでは圧力と共に共有性が急激に弱くなることが分かった。このことが動的非対称性が出現する要因である。 2) 液体SiO2の部分構造と拡散機構の圧力依存性:第一原理分子動力学計算を0 GPaから200 GPaの圧力範囲で行った。100 ps程度の長時間のシミュレーションを実行し、拡散係数の計算値を十分な精度で求めた。その結果、50 GPa程度の高圧条件において、シリコンの拡散係数が酸素の拡散係数よりも大きくなり、動的非対称性が現れることを見出した。今後、シリコンのみが動き易い拡散経路の同定、拡散障壁の評価等、拡散機構の解明を行っていく予定である。 3) 水の拡散機構のクロスオーバー:第一原理分子動力学計算を1 GPa程度までの圧力範囲で行い、各圧力での拡散係数の温度依存性を求めた。今後、水素の量子的挙動の影響などを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、高圧実験と第一原理分子動力学法に基づく理論計算の連携を通して、高温・高圧下にある種々の共有結合性液体中の動的非対称性を解明することにある。特に、液体SiO2は地球科学的に古くから広く興味の持たれる物質であり、ソフトマターと比べこのような単純な系で動的非対称性の出現条件等を解明できれば、学術的に重要な基礎研究となるため、本研究において最重要のテーマの一つとして取り組んでいる。平成24年度の研究において、シリコンのみが大きく移動する拡散経路の同定と、拡散障壁の定量的評価をすることができた。高圧下にある共有性液体中での動的非対称性を第一原理的に解明した初めての研究成果であり、インパクトの高い雑誌へ投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
SiO2よりも複雑なシリケート系液体の部分構造と拡散機構の圧力依存性を第一原理分子動力学法で調べる。MgSiO3等のシリケート系では、低圧において既に配位数の不均一性があり、動的非対称性がどのように現れるのか非常に興味深い。また、液体AgIなどの液体貴金属・ハロゲン混合系では、常圧下において、貴金属の拡散がハロゲンに比べて圧倒的に大きく、動的非対称性が常圧から見られる。この系は、貴金属元素間と異種元素間の距離がほぼ同じであり極めて特異な部分構造を示す。動的非対称性は、この部分構造を与える貴金属元素間相互作用によって生じていると考えられる。液体AgIの第一原理計算を行い、部分構造と元素間相互作用の圧力依存性を調べ、動的非対称性の圧力変化を議論する。実験的には、Ge-Te系の動的非対称性の観測を目標とする。
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