研究課題/領域番号 |
23340107
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
佐藤 英行 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (80106608)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 重点スクッテルダイト / 籠状物質 / 強相関電子系 / 高圧合成 / ラットリング |
研究概要 |
計画に従って行った試料育成・物性測定について以下に例をあげて説明する。 ①物性報告が欠如した希薄希土類化合物の単結晶を育成し、基礎物性の測定を進めた。異的籠状物質RAu3Al7のうち、R=Ceは~16K以下に-log(T)依存性を示し、~2.5Kで強磁性に転移する興味深い系であることが分かった。R=Smは~2.8Kに磁場に対して鈍感な、~0.9Kに磁場に非常に敏感な、2つの相転移を示す。他に、2つの希土類イオンが繭状の籠中に内包されたR6Cr4Al43の単結晶を育成し、基礎物性を測定したところ、R=Tmは~2Kで反強磁性転移を示し、電気抵抗の温度依存性にTm系としては極めて稀な-log(T)依存性を見出した。 ②RT2Al20系(R=希土類、Tr:遷移金属):特に、Sm基に重点を置いて、Trを3d、4d、5d-遷移元素に変え、物性の系統的変化を調べた結果、相転移温度やその磁場鈍感性、XAS測定によるSm価数(~2.87価)など類似性が多いことが明らかとなった。 ③結晶育成の困難さから、報告が殆どないSm系スクッテルダイト(SmTr4As12:T=Ru,Os)の基礎物性評価を行った。前者の電気抵抗は~37Kに緩やかな極小を示し、低温で近藤効果を示唆する-log(T)依存が見いだされた。2.6Kで(反強磁性ではない)相転移を反映した折れ曲りを示し、比熱にも同じ温度に鋭いピークが現れる。帯磁率はSm3+から予想されるCurie-Weiss則に従い増加するが低温でSm2+に期待される値に飽和する。電子比熱係数は秩序状態でも~270mJ/Sm.mol.K2と顕著な質量増強を示す興味深い系であり、より広範な物性評価が望まれる。一方、SmOs4As12も抵抗における依存や~4.7Kに於ける相転移など類似した振舞を示すが、低温で帯磁率は増加し続け、4f電子による強磁性である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
興味深い特性が期待されながら単結晶育成が実現できずに物性報告のなかったSmTr4As12系(全く報告のなかったSmRu4As12及びSmOs4As12の単結晶育成に成功し、磁気特性、電子輸送効果、比熱の測定に初めて成功し、Trの違いにより基礎物性が大きく変わるなど興味深い特性を見出した)とYb系充填スクッテルダイト系(YbFe4P12単結晶の育成に初めて成功し、会議録に報告されていた0.7 Kにおける比熱の巨大なピークが不純物によること、基礎物性が非フェルミ液体的な振舞いを示すこと、YbOs4As12ではYbの価数が基本的に2価であるみとなど)の基礎物性評価に成功した。また、比較対象系として重要な籠構造物質SmTr2Al20についてもTrを系統的な変えた物性評価を行った結果、SmTr4As12系と反対にTrの置換に鈍感であることが明らかになった。加えて、新たな希薄希土類籠状化合物の探索を行い、いくつか興味深い物質系が見出されている。
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今後の研究の推進方策 |
充充填スクッテルダイト及びRTr2Al20の二つの系については、基本的に幾つかの詰めの補充測定のみを行い、これまでに得られた成果の公表を早めることに重点を置いて進める。ただし、PrRu4P12の、Pr イオンの持つ4f 電子と核スピンと結合した複合状態はこれまでにない特異な例であるため、これを考慮した新たな極低温までの電子輸送測定を行う。RAu3Al7については、4f電子の寄与を分離するために不可欠な参照物質LaAu3Al7の単結晶の大型化を進める(高圧下フラックス法により点結晶化に初めて成功したものの、物性評価のためにより大型化が必要なため)。R6Cr4Al43系化合物については単結晶の純良化と物性評価を進める。並行して、希土類の希薄性と結晶の対称性を配慮して、c-f混成効果を表す新たな希土類籠状化合物の探索を続ける。
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