研究課題/領域番号 |
23340108
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
矢野 英雄 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70231652)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超流動ヘリウム / 量子渦 / 量子乱流 / 量子流体力学 |
研究概要 |
超流動ヘリウム(4He)の渦の量子化の発見から半世紀がたつが、渦の慣性質量や波動といった動的な性質は、いまだ明らかになっていない。それは、渦芯が0.1 nmと大変細く、渦の運動を観測する手段が少なかったためである。我々は、超流動ヘリウムの量子渦が境界(壁)に付着し、境界の振動に伴って量子渦も運動することを発見した。この量子渦のユニークな性質を利用し、渦の線形・非線形波動を実験的に明らかにすることを目的としている。本年度の主な研究実績は以下のとおりである。 1.我々はこれまでの研究で、量子渦の波動から量子渦環が放出されることを明らかにしてきた。この成果を踏まえ渦環の飛行検出装置を開発し、渦環の飛行速度と放出頻度から量子渦の運動状態を研究した。放出される渦環は、境界の振動周波数で予想される波長サイズの渦環よりも、2桁以上速い速度のものまで分布することを明らかにした。この結果は、量子渦の振動運動によって渦に誘起する波長よりも2桁以上小さい渦環が生成されていることを示しており、量子渦の非線形運動を示す直接的な結果である。これらの成果は、物理学の著名な学術雑誌Physical Reviewに掲載され、優秀な研究に贈られるEditors' Suggestionを取得するに至った。 2.量子渦の線形・非線形波動を検出する装置として振動ワイヤ法を開発し、量子渦を振動ワイヤに付着させ振動させることにより、量子渦の運動検出を試みた。その結果、ワイヤの速い振動によって起こる抗力の発生から、量子渦の非線形運動を検出した。しかし線形波動を検出するまでには至らなかった。原因として、線形運動を検出するに十分な感度がないことが考えられる。これらの結果から線形運動を検出するためには、付着量子渦の数を増やすことと、より高感度な波動検出器が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり実験装置の開発・製作をおこない、期待された成果が得られた。これらの成果は、物理学の著名な学術雑誌Physical Reviewに掲載され、優秀な研究に贈られるEditors' Suggestionを取得するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
量子渦の線形・非線形波動と慣性質量の研究を進める。我々の開発した量子渦環の飛行検出システムは、量子渦波動を解明する有力な手段となる。また波動検出システムの検出感度向上の必要性がわかってきた。これらの成果を発展させ、次の研究を推進する。 1.量子渦の波動から生成される渦環の研究 量子渦の非線形波動から生成し離脱する量子渦環を、飛行方向と放出頻度から研究する。3つの極微細振動ワイヤのそれぞれを適宜配置することで、量子渦の非線形運動を誘起する振動物体と飛行渦環の検出装置を開発する。この装置により、渦環飛行と放出頻度を実験的に調べることで、量子渦の非線形波動の研究を推進する。 2.量子渦の線形・非線形波動の研究 これまでの研究から、量子渦の生成と付着を促す新たな方法が必要であることがわかってきた。この結果を踏まえ、超流動ヘリウムに回転流を起こして量子渦を生成し境界に付着させる方法を開発する。付着境界には音叉型水晶振動子を用いることで、境界への渦の付着を促すとともに、振動による量子渦の応答を高感度に検出する方法を確立する。これらの方法によって量子渦の振動エネルギースペクトルの精度を向上させ、量子渦の線形・非線形波動の研究を推進する。
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