研究課題/領域番号 |
23340111
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
熊井 玲児 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (00356924)
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キーワード | 分子性固体 / 有機強誘電体 / エックス線構造解析 / 放射光 / 超分子 / 高圧 |
研究概要 |
強誘電体は多くの電子材料をはじめ、圧電素子、光学素子など応用範囲の広い重要な物質である。軽量、低コスト、有害・希少元素を含まないなど多くの利点を有する有機強誘電体の開発は喫緊の課題といえよう。強誘電体における分極発現機構は、実空間の構造と密接に関連し、物性と構造の対応は強誘電体設計・開発における最も重要な知見の一つである。本研究課題では、これまでに得られた水素結合系強誘電体、電荷移動型強誘電体結晶を用いて、温度・電場・圧力などの外場下における物性変化と構造変化を明らかにし、その知見を元に新規強誘電体の設計指針を得ることが目的である。当該年度は、酸-塩基からなる水素結合系超分子強誘電体Phz-H2xaの温度-圧力による構造変調を明らかにするための実験を行った。この結晶は、置換ハロゲンの違いにより異なる基底状態(Cl;二倍周期構造強誘電、Br:三倍周期構造強誘電、F:常誘電)を有し、常圧で強誘電転移を示す塩素・臭素置換体では温度変化により逐次相転移を示すことが知られていた。これらの結晶に圧力を印加し、誘電測定及び放射光回折実験を行ったところ、フッ素置換体、臭素置換体ともに常圧とは異なる長周期構造をもつ強誘電相が誘起され、高圧低温では塩素置換体で見られた二倍周期構造が安定になることが明らかになった。赤外分光の結果と合わせて考察した結果、これらの長周期構造は、プロトンが酸から塩基へ移動して生じたイオン性種と中性種が共存することに由来すると示唆される。長周期構造を有する低温での分極の起源は、中間温度領域に見られたプロトンのわずかな変位がさらに進んだプロトン移動型の構造にあることが明らかになった。また、温度-圧力相図から、置換ハロゲンと温度の違いにより出現した多くの誘電相がすべて統一的に理解できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書における当初計画に記述した通り、超分子型水素結合系強誘電体Phz-H2xaの逐次相転移に関して、高圧下における誘電挙動と構造変調の測定を行い、この系の基底状態及び高圧低温下における分極発現機構を明らかにした。さらに電場下におけるドメイン制御、圧力下における精密構造解析システムの構築など、次年度以降の研究のための予備実験も行いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
種々の有機強誘電体の分極発現機構を明らかにするために、H23年度に行った超分子水素結合系強誘電体Phz-H2xaに加え、他の水素結合系誘電体、あるいは電子ドナー・アクセプターからなる電荷移動錯体系など、多くの系についての測定を行い、分極整列機構に関する知見を集積し、新たな誘電体構築のための設計指針を構築する。また、電場によるドメイン制御を施した構造解析、高圧下における精密構造解析など、強誘電体の構造解析及び外場下構造変調の観測のための新たな手法の確立を目指す。
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