これまでに、有機の酸と塩基からなる強誘電体、反強誘電体が多く見つけられてきたが、これらの物質について、誘電転移の温度(TC)と強誘電体の分極値(P)を、構造的観点から整理してみたところ、水素結合長が大きいほど誘電体としての特性が高い(転移温度が高く、分極値が大きい)ことが明らかになった。この特徴から、用いる酸あるいは塩基分子に立体障害となる置換基を導入することで、誘電体の特性をあげることが可能であると考え、かさ高い置換基であるピリジン環を導入した[H-dppz][Hca]を作成したところ、水素結合長が約 2.7オングストローム、それまでに得られていた水素結合系強誘電体の中では最も大きく、P = 5.2 μCcm-2、TC も約400 K となり、高い強誘電特性を示しすことが明らかになった。 一方、メチル基を導入した系である[H-66dmbp][Hia]では、さらに長い約 2.9 オングストロームという水素結合長をもつ構造をとることがわかった。この物質では、高分子系の強誘電体であるPVDFに匹敵する P = 8.0 μCcm-2を示した。転移温度に関しては、水素結合長から期待される転移温度(約600K)よりも低い約400 Kで構造相転移が生じ、反強誘電的構造へと変化することが明らかになった。これは、大きな水素結合距離や立体障害の影響により、分子配列や分子内の置換基の回転などに自由度が生じたために高温で構造相転移がおこったためと考えられる。 これらの結果から、誘電体の特性を向上させるための方策として、水素結合長の制御は有効であり、一つの設計指針であることが明らかになった。
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